稲の高温耐性品種の導入を検討してみませんか
つくば市内で水稲を作付けされているみなさまへ
食味が良い
暑さ・病気に強い
収穫量が多い
1. 令和5年産水稲の作柄
(1) 水稲作柄と「コシヒカリ」の1等米比率
令和5年の夏は近年にない暑い夏となりましたが、今年の夏も昨年並みの暑い夏が予想されています。
茨城県農業総合センター専門技術指導員室が発表した「令和5年産水稲の作柄と6年産に向けた対策」(「農業いばらき」2024年5月7日付け特集)によれば、茨城県における令和5年産水稲の作況指数は101の「平年並み」で、水稲うるち米の1等米比率は56.3%、うち、「コシヒカリ」の1等米比率は46.2%(いずれも令和5年12月31日付け速報値)となり、令和4年に続き玄米品質が低下する結果となっています。
水稲定点圃場(県内33地点)の調査結果から見た「コシヒカリ」の令和5年産の作柄は、①草丈は高く茎数は少なく推移、②収量は平年並み、③白未熟粒が多く整粒歩合が低下、という結果となりました。
過去10年の茨城県産コシヒカリの1等米比率の推移(農林水産省農産物検査結果より作成、2023年は令和6年3月31日付け速報値。)は図1のとおりです。
(2) 最も効果があったと思われる高温への適応策
農林水産省が各都道府県から「令和5年夏の記録的高温に係る影響と適応策」について聞き取りを行った結果、最も効果があったと思われる適応策(複数回答)は、①高温耐性品種の導入 41%、②水管理の徹底 32%、③施肥管理の徹底 12%の3項目で8割を占めています。(図2)
出典:「令和5年夏の記録的高温に係る影響と効果のあった温暖化適応策等の状況レポート」(農林水産省)
茨城県農業総合センター専門技術指導員室「令和5年産水稲の作柄と6年産に向けた対策」(農業いばらき)
農林水産省「令和5年夏の記録的高温に係る影響と効果のあった温暖化適応策等の状況レポート」 (PDFファイル: 998.8KB)
2. 令和6年産に向けた対策
(1) 5つの基本技術
前記「令和5年産水稲の作柄と6年産に向けた対策」によれば、茨城県では高品質な「コシヒカリ」生産のため、「いばらき高品質米生産運動」として、下記の「5つの基本技術の励行」を推進しています。
基本技術① 適期田植えの推進(5月5日以降の田植え)
基本技術② 中干しによる茎数制限
基本技術③ 登熟期の間断かんがいと早期落水の防止
基本技術④ 適期収穫と適正な乾燥・調整
基本技術⑤ 土づくりの推進
(2) 追加対策
しかし近年では、水稲生育期間中の高温傾向が顕著になっており、上記の対策だけでは本県産米の高温障害の回避策としては不十分です。そのため、今後はこれまでの基本技術の励行に加え、下記の対策により、高温リスクに対し十分に備えることが必要です。
追加対策① 高温耐性品種の導入
追加対策② 複数品種による作期分散
追加対策③ 病害虫の適期防除
3. 高温耐性品種の紹介
温暖化適応策としては、基本技術の励行と追加の対策が必要とされていますが、ここでは2(2)追加対策①で取り上げられている高温耐性品種について紹介します。
(1) 高温耐性品種とは
高温耐性品種とは、高温にあっても玄米の品質や収量が低下しにくい品種を言います。
高温耐性品種には、「きぬむすめ」、「つや姫」、「にこまる」、「なつほのか」、「新之助」、「雪若丸」、「ふさおとめ」、「てんたかく」、「にじのきらめき」、「ふくまるSL」、「ゆうだい21」などの品種があります。
(2) 増加する高温耐性品種の作付面積
近年の温暖化に伴い高温傾向が続くことが予想されることから、高温耐性品種の作付面積は増加しています。(図3)
出典:前出「令和5年夏の記録的高温に係る影響と効果のあった温暖化適応策等の状況レポート」(農林水産省)
(3) 高温耐性品種の紹介
ここでは、次の3つの高温耐性品種を紹介します。
3品種とも、コシヒカリの栽培地域で栽培可能とされています。各品種の来歴とコシヒカリと比較した特性を示します。
ア) にじのきらめき
育成者:農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
種苗法による品種登録:登録番号第29274号(登録日2022年6月28日)
両親:「なつほのか」×「北陸223号」
その他:茨城県水稲奨励品種
特性:高温登熟性と耐倒伏性に優れた中生品種。コシヒカリ並の極良食味で大粒、多収。縞葉枯病に抵抗性を示す。コシヒカリとほぼ同じ熟期。
農業・食品産業技術総合研究機構『高温耐性に優れた極良食味水稲品種「にじのきらめき」』三つ折りパンフレット (PDFファイル: 1.4MB)
茨城県農業総合センター「にじのきらめき栽培暦」令和6年度版 (PDFファイル: 146.2KB)
イ) ふくまるSL
育成者:茨城県
種苗法による品種登録:出願番号第34724号(出願公表日2020年8月3日)
両親:「ふくまる」に「一番星」を2回戻し交雑
その他:茨城県水稲奨励品種
特性:ふくまるSLは、縞葉枯病抵抗性以外はふくまるとほぼ同じ特性を示すとされているので、主にふくまるの特性を示します。高温の年でも白未熟粒の発生が少なく、食味はコシヒカリ並。コシヒカリと比較して、成熟期は7-10日程度早い、短稈で倒伏に強く、大粒。適切な肥培管理で2割程度増収。縞葉枯病に抵抗性を示す。
ふくまるSLは、ふくまるに代わる品種として取扱われることとされており、令和3年に種子の供給はふくまるSLに一本化されています。ふくまるSLとふくまるの取扱いについては、該当するQ&Aをご確認ください。
にじのきらめきとふくまるSLについては、茨城県農業総合センターの試験結果がありますので、ご関心のある方はこちらもご覧ください。
茨城県農業総合センター「令和6年度茨城県奨励品種特性表」 (PDFファイル: 216.8KB)
ウ) ゆうだい21
育成者:宇都宮大学
種苗法による品種登録:登録番号第18779号(登録日2010年1月14日)
両親:不明(試験圃場で発見)
その他:なし
特性:高温条件下でも外観品質が低下しにくく、食味は特有の甘みと粘りでコシヒカリを上回る。コシヒカリと比較して、成熟期は4-5日遅い。稈長は5-10㎝長く、施肥量に留意する。いもち病にやや強く、収量は同程度。収穫適期幅が広く、刈遅れによる品質低下が少ない。
宇都宮大学「ゆうだい21」ウェブサイト『「ゆうだい21」栽培のポイント』
4. 高温耐性品種導入事例の紹介
(1) JA北つくば(筑西市、桜川市、結城市)
JA北つくばは、令和元年に業務用米としてのにじのきらめきの栽培委託先を探していた大手米穀卸会社の求めに手を挙げて、当時県内に栽培事例がほとんどなく、当地での栽培特性が分からない中、「まずはチャレンジ」という取組みに共感した生産者7名とともに16haで栽培を開始し、農研機構、茨城県の試験研究機関、普及機関、取組み事例のある他県JA、農薬メーカーの協力による栽培指導を受けて、高収量と品質の高評価を得ました。その後着々と生産者、作付面積を増やし、令和5年は約200人の生産者が560haで栽培されています。
茨城県農業総合センター『粒が大きくて食味が良い水稲新品種「にじのきらめき」』
(2) JA邑楽館林(群馬県)
JA邑楽館林、館林地区農業指導センターによる令和5年の講習会資料です。にじのきらめきの栽培ポイントについて、説明されています。
JA邑楽館林『令和5年産「にじのきらめき」栽培講習会資料(JA邑楽館林、館林地区農業指導センター)』 (PDFファイル: 2.5MB)
5. よくある質問Q&A
(質問1) 高温耐性品種の種はどのようにして入手できますか?
まずは、地元のJA等の種苗取扱店にお問い合わせください。
なお、申込期限は定植前年の8月末が目安となります。
「ゆうだい21」の申込みは、宇都宮大学のホームページでもご確認ください。
(質問2) 種苗法による登録品種の種を自家増殖(自家採種)してもよいですか?
令和4年4月1日から種苗法による登録品種の自家増殖には権利者の許諾が必要となりました。
登録品種の自家増殖の取り扱いについては品種ごとに異なる場合がありますので、直接権利者へお問い合わせください。今回紹介した3品種は、それぞれに自家増殖の取り扱いが異なりますので、ご注意ください。
【自家増殖の取り扱い例】
・「にじのきらめき」の場合
農業者個人又は農地法第2条第3項に定める農地所有適格法人、並びにこれらの方から農地を賃借する方は、許諾条件を遵守することにより自家用の栽培向け増殖の許諾手続きが不要です(許諾条件は、農研機構のホームページでご確認ください)。
この許諾は自家用の栽培向け増殖に係るものであり、増殖した種苗の他者への譲渡(有償・無償に関わらず)を許諾するものではありませんのでご注意ください。
・「ふくまるSL」の場合
茨城県内生産者は、従来通り許諾契約(育成者権の及ぶ登録品種の利用に必要な契約)を締結せずに、無償で自家増殖を行うことが可能です。
ただし、県内生産者が種苗を購入する際には、自家増殖の状況を確認できる体制をとるため、利用条件等を記載した同意書に署名し、種苗生産の許諾先へ提出することが条件となります。
この記事に関するお問い合わせ先
経済部 農業政策課
〒305-8555 つくば市研究学園一丁目1番地1
電話:029-883-1111(代表) ファクス:029-868-7622
更新日:2024年07月23日