アートやデザインで医療・福祉現場の課題に寄り添う

更新日:2026年02月27日

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vol.63 特定非営利活動法人チア・アート さん

役割から解放し、交流を生み出すアートの可能性

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▲学生と多職種でにぎわうアートカフェ

 

ある12月の夜、筑波メディカルセンター病院に、職員や大学生たちが盛んに出入りする一室がありました。

 

筑波大学芸術分野の学生と職員が気軽な雰囲気で交流する「アートカフェ」です。病院をフィールドにアート活動を手がける学生たちがパネル展示やワークショップを開催し、職員と気軽に意見交換をする場づくりをしていました。

 

訪れる職員の装いはさまざま。白衣や青いスクラブ(医療用の仕事着)を着た人もいれば、ワイシャツ姿の人も。院内の多様な職種の人たちが集まっていることが分かります。

 

このアートカフェの開催に協力しているのは「NPO法人チア・アート」さん。医療や福祉の現場に通い、そこで働く人たちに伴走しながら、アートやデザインの手法で現場に潜む課題解決を目指す活動をしています。

 

学生たちは、「adp(アートデザインプロデュース)」という大学のプログラムの一環で活動しており、チア・アートさんは学生と病院をつなぐ潤滑油の役割を果たしています。

 

この日、学生たちが展示したのは、院内で感じる良いことや“もやもや”することを調査した「メディカル療養環境マップ」や、いばらきデザインセレクション2025で知事選定を受賞した「ICU(集中治療室)家族控室改修プロジェクト」のパネル、市内に点在する巨大標識の謎を追うチームの調査内容。院内に「あったらいいな」と思う空間をコラージュアートで表現するワークショップもあり、学生と職員が一緒に和気あいあいと作業をしていました。

 

同病院の広報担当者は「学生やNPOと連携することで、スタッフだけでは出ないアイデアが生まれるので心強い」と芸術分野ならではの視点や熱意に期待を寄せます。

 

学生にとっても貴重な学びの場となっており、同病院のアートコーディネーターも務める学生は「社会人と同じ立場で提案ができたり、学生に対する場づくりができたりする」と充実感を滲ませます。

 

チア・アートさんはアートカフェ以外にも、病院や特別支援学校などでアートプロジェクトを展開し、職種や地域、個性を超えた人と人の出会いを生み出してきました。

 

「アート活動を取り入れることで、役割から解放されて人と人が向かい合うことができるのではないか」(チア・アート担当者)

 

いつも通りの思考をやめて、新しい価値観や居心地のよさを考えるきっかけが生まれています。

日常と分断された「冷たい」空間に「あたたかさ」を

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▲医療従事者から話を聴く大学生

 

チア・アートさんがNPO法人となるまでには、15年の積み重ねがあります。

 

前身の活動は、筑波大学の芸術分野と筑波大学附属病院、筑波メディカルセンター病院が協働で取り組んできたアートとデザインのプロジェクト。

 

学生の視点で、病院内の人間らしくない冷たい場所を探したのが、最初の活動だったそうです。

 

当時の学生が注目したのは“トイレの冷たいスリッパ”。

人が癒される場と合っていないと感じたそう。そこで、トイレに「日めくりカレンダー」を設置。すると、学生がめくらなくても、誰かがめくってくれるようになり、「誰かと一緒に小さな活動をしている」という人間的なあたたかさが生まれたそうです。

 

患者にとって病院は日常と切り離された空間です。

命に関わる場であるからこそ緊張感もあります。

 

その空間に、アートやデザインの視点が入り込むことで、血の通った関わり合いや人間性の回復が見られるようになったのです。

 

効果を合理的に測る医療・福祉現場の治療やケアと違い、失敗を繰り返すプロセスを重視するのがアート活動。当初は、芸術分野の学生が医療現場に入ることで、どんな効果や影響があるのか予想できなかったそう。しかし、活動を積み重ね、患者さんの声や職員の反応から、アートやデザインによる医療・福祉の現場支援の可能性が少しずつ言語化されてきました。

 

チア・アートさんは、学生の活動が増え、職員や患者さんにも活動が認知されるようになったタイミングの2017年にNPO法人化を決意。それまでの実践を踏まえて、活動地域や活動の幅を広げています。

対話が企画を育む、お客さんではなく当事者として『つくる側』に

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▲アートコーディネーターのみなさん

 

プロフェッショナルと聞くと、「正解」や「完璧なもの」をアウトプットする人というイメージが湧きますよね。

 

チア・アートさんの活動では、アートやデザインなどに精通したメンバーが活躍していますが、その制作プロセスは、メンバーが現場にいる人たちと「一緒につくる」というもの。

 

「私たちがつくって出すというよりも、『みんなが当事者』になる。私たちも気づきを得たり、一緒に考えたりしています」と話すのは、筑波大学附属病院でアートコーディネーターを務める松﨑さん。「みんなからアイデアの種をもらって、育てている」と制作のプロセスの重要性を語ります。

 

アートコーディネーターは、医療・福祉現場の課題や要望と芸術分野の教授や学生をつなげる役割。芸術と医療という性質の異なる分野をつなぎ、両者が理解し合いながらプロジェクトを進めていくためのサポートをします。

 

長年連携する筑波大学附属病院と筑波メディカルセンター病院では、アートコーディネーターが週1回は病院内で勤務。この距離感の近さから、ちょっとしたことでも相談し合える関係性を築いてきました。

 

「対話のプロセスの中で出てきたものが、社会で大切なものかもしれない。アートは社会に問いかける役割もある」と松﨑さん。

チア・アートさんに関わる人たちの実践は、現場を知るための「対話」から始まります。

 

当事者や関係者とのコミュニケーションの中で企画を立案し、実施や検証を繰り返していきます。チア・アートさんにとって医療や福祉の現場で活動する人たちは、お客さんではなく一緒に種を撒き、育てていく存在。だからこそ、松﨑さんは「完成したら終わりではなく、継続的な関係性を築いていきたい」とも話します。

 

「医療や福祉は誰もがお世話になるもの。誰もが自分ごとにして、病院や施設をより良い場にしていけるよう一緒に考えていきたい」(松﨑さん)

 

対話のふとした気づきで、社会がより良くなったり、人間性が回復したりするきっかけになりそうです。

チア・アートさんが企画する「対話」

医療とアートを考える勉強会「チア!ゼミ」

実践者や当事者から話題提供を受け、医療・福祉現場におけるアートやデザインのあり方について、参加者たちで考えを深めていくプラットフォーム

ざわざわの茶話会

医療や福祉における「ざわざわ」を共有し、アイデアを見つけ育てていくオンライン茶話会

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