十人十色の自立を考えて、障害者の自立生活をサポート
Vol.55 つくば自立生活センターほにゃら さん
障害に関わらず人生を謳歌できる社会へ、自分たちで変えていく

「家族や仲間、愛しい人と一緒にいること、ときに大わらいし、ときに大げんかし、かなしみ、大さわぎし、大めいわくをかけながら生活することを、喜びとし、幸せとし、この営みをやめるわけにはいきません」
設立趣意書にこのように書き記しているのは、障害者が主体となって障害者の自立を支援し、障害に関わりなく自分らしく生きる社会を目指す「つくば自立生活センターほにゃら」さんです。
設立メンバーは、つくば市で暮らす障害者の生活を安定させようと、活動を始めました。
ヘルパーに関わる制度は段階的に整えられてきていますが、設立当時は制度が十分に整っておらず、ヘルパーと呼ばれる人たちは基本的にボランティアで活動していました。
その時代は自立生活をしようとすると、生活をサポートしてくれるボランティアを自分で集めるほかなく、多くの障害者が「自宅で生活するか家族の介助に頼って生活する」か「施設に入居する」かの2択しか持っていなかったそうです。
「自分で自立したい」「自分の人生を謳歌したい」
そう考えた当事者たちが、自立生活センターほにゃらを立ち上げたのです。
制度が整う前は、健常者が障害者のために「やってあげる」という視点でした。
一方、現在は利用者がヘルパーをパートナーとして「選ぶ」という考え方。当事者が自宅や地域で自立した生活を送れるよう支援し、自己決定を尊重しています。
全ての障害者が、自立生活を考えているわけではありません。「ほにゃらはまだレアケース」と代表の川島さんは指摘します。
そもそも、どうしたら自立生活をできるのか、学校も行政も教えてくれません。
知らないという理由で自立生活が選択肢に入らない人が多く、紆余曲折を経てようやく「ほにゃら」さんに辿り付いたという人たちが少なくないそうです。
ほにゃらさんの主な活動は、当事者たちの心理的サポートと自立生活をするための実践的サポート。心のケアとともに、自立した生活を送るにはどうすれば良いのか、その人に合わせたアドバイスをします。
障害は、十人十色。ほにゃらさんにとって「初めてのパターン」も少なくありません。
どうすればサポートをしていけるか、ゼロから一緒に考えていきます。自立生活に向けたサポートは、それぞれに合わせて調整し、長期スパンになることもあります。
安全面を考えたら、本人の考えていることに徹底的に付き合うことが難しい場合もあります。
しかし「それができるのが、ほにゃら」と川島さん。
川島さんは自身の経験を踏まえて寄り添い、「本人の想い」を知ることに注力します。「全部を代弁できることはないけれど、介助者に伝えることで、介助者の視点が増えることもある」と話します。
最初は本心を話せないこともあります。「安心して相談できる場になりたい」と思いを馳せます。
実践とは、自立生活をするためには介助者に「どう伝えたら、やりたいことができるか」ということ。
カラオケに遊びに行くにしても、本当に自分の好きな時間を過ごすためには「どのカラオケに行くのか」「どのくらいお金がかかるのか」「どうやって行けばよいのか」など細かく介助者に伝えなければいけません。
考え方や調べ方、伝え方をマスターするには、経験値を積み重ねていくことが大切です。
介助者の育成にも力を入れます。
介助者に車いすの体験をしてもらうことで、介助する際の注意点を身をもって知ってもらう研修を行うこともあります。
また、しゃべれる人ばかりではありません。その場合は表情や仕草といった言葉以外のコミュニケーションで対話。「これは困ってるっぽいな」と注意深く意思を汲み取ります。
寄り添っているつもりでも「本心はそうだったんだ」ということもあるそう。
スタッフは「一日として同じ日はない。そういうところが、やりがいに繋がっている」と話します。
メモ
今回の記事では、介助者とヘルパーの両方の表現を使っています。
介助者は障害者の日常生活をサポートする人たちの総称として使い、ヘルパーは介護職員初任者研修などの資格を有している人という意味で使っています。
たくさんの人やものに頼りながら、自分のやりたいを実現する

代表の川島さんは、脊髄性筋萎縮症(SMA)という進行性の難病の当事者。電動車いすに乗って移動し、24時間の介助が必要です。
川島さんにとって「自立」は、必要なサポートをしっかり受けながら、自分が選んだ場所で、自分が選んだ人と自分らしい生活を送ることなんだそうです。
自立とは自分で何もかもするという意味ではありません。
例えば、Aさんは自分で着替えをすると1時間かかりますが、サポートを受ければ15分で済みます。
「15分で着替えを終わらせて、余った時間は自分のために使おう」という考え方です。
人生を楽しむ時間はさまざま。川島さんもライブ観戦でアリーナやドームに行くなどと、アクティブに過ごしてきました。
川島さんは夫との二人暮らし。「旦那は旦那で、それぞれ自立した生活をしている」と川島さん。「自分が選んだ人と自分らしい生活」を夫婦で体現しているようです。
「ほにゃら」の名称の由来については「諸説ある」と川島さん。
一説には、「〇〇したい」の〇〇をほにゃらと読むことが理由。〇〇にはそれぞれが好きな言葉を入れることから、好きなことに寄り添うほにゃらさんを表現しているようです。
ほかの説としては、「ほにゃらです」と自己紹介すると「なにそれ」という反応が返ってきて、知ってもらったり、話したりするきっかけになるからという理由。素敵な名称ですよね。
目指すのは、「ほにゃらに行けば、なんとかしてくれる」という存在になること。
そのためにも「活動内容や考え方をもっと知ってもらいたい」と話します。
障害者の家族が頑張り過ぎていることがまだまだ多く、「そんなに頑張らなくても、いろいろ頼って良いんだよと伝えたい」と川島さんは話します。
また、当事者にとっても「それは我慢しなくていいんじゃないか」ということがあるそう。「やりたいことをしたっていいよ。そのために頑張らないといけない課題はあるけど、我慢しなくていいよ」と呼びかけます。
ほにゃらさんは、障害がある子どもたちの「やりたい」に寄り添う「ほにゃらキッズ」も運営しています。
ほにゃらキッズは、障害児の親と関わっていたメンバーが、子どもの放課後の居場所づくりをしたいと始めました。
「遊んだり、寄り道したり、子どもには子どもなりの自立がある」と川島さん。子どもらしい自立の経験値を積んで、自分なりの居場所づくりができるようサポートします。
親と出かけると、親の都合で行ける場所や留まれる場所が決まってしまうことも少なくありません。
そうではなく、好きなだけ好きな場所で過ごしたり、家族と一緒だと実はできないことをしたりする機会をつくっています。
スタッフたちは子ども目線で寄り添い、親には言えないヒミツを共有するなど子どもたちの居場所になっているようです。
親も頑張り過ぎないで任せることを経験することができます。
大人の自立生活を間近で見ることも学びになります。「施設の入居が良い悪いではなく、自立生活を選択肢の一つにしてもらいたい」と話します。
ほにゃらキッズでは、子どもたちとその親が月1回話し合ってイベントを企画するそう。「やりたいをやれた」経験を積み重ねていくそうです。
経験を積み重ねていくことが、将来の選択肢を広げることにつながります。
障害者の地域での生活をサポートするサラダボールさんも運営

ほにゃらさんの活動の中には、介助派遣や移送サービスもあります。この活動を担当しているのが「特定非営利活動法人サラダボール」さんです。
障害者が自立生活を送る上で、同じ目標を持ったヘルパーの存在や移動手段の確保が不可欠です。
特に、ほにゃらさんのメンバーにとっては、私生活でもほにゃらの活動でも介護が必要。そこで「だったら自分たちで事業を運営しちゃおう」と考えてサラダボールさんが始まったんだそうです。
サラダボールさんは、障害者が地域で暮らすサポートをするため、入浴や食事などの日常生活のサポート、買い物や余暇活動へ行くための移動支援など(居宅訪問介護、重度訪問介護、移動支援、移送サービス)を行っています。
川島さんは「まだ、サラダボールの認知度は低い。もっと知ってもらって、仲間を集めたい」と話します。
【日常生活アシスタント】を募集しています!ご関心がある方は、NPO法人サラダボールさんまでご連絡ください。
このほかにも、ほにゃらさんは障害者の生活や課題について広く知ってもらおうと、様々なイベントを開催しています。また、ほにゃらさん以外の団体もイベントを開催しています。「Facebookなどで探してみて、気になったイベントに参加してみてほしい」と話します。
イベントに参加すると、知識が増えるだけでなく、障害者の顔見知りができるはず。そんな出会いを通じて、「どんなことに困っているんだろう」と考える機会が増えます。
「街なかで見かけたときに困っていそうだったら、声をかけてほしい。実際には困ってなかったら、それはそれで良い」(川島さん)
ほにゃらさんは当事者たちが編集する機関誌「フリーハンド」も発行しています。ほにゃらさんの多様な活動を通じて、当事者が困っていることや生活を楽しんでいる様子を知ることができます。
ぜひ、ほにゃらさんの発信に注目してくださいね。
みんなの参加が、少しずつ誰もが人生を謳歌できる社会を創造していくはずです。
まずは「知る」ことから一歩を踏み出しましょう。
NPO法人サラダボール
電話: 029-859-0590(平日10:00~18:00)
メール: cil-tsukuba@cronos.ocn.ne.jp
この記事に関するお問い合わせ先
市民部 つくば市民センター
〒305-0031 つくば市吾妻一丁目10番地1
電話:029-855-1171 ファクス:029-852-5897
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更新日:2025年11月21日