シニア向けの音楽サロン開催、音楽療法使い楽しく健康に

更新日:2025年09月29日

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vol.52 一般社団法人おととも さん

音楽の力で明るく楽しく健康に!

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「楽しそうに!生きている感じで!」「口が動かないと誤嚥性肺炎になりやすいですよ」「血流がよくなって、頭がはっきりしてきませんか?」

ピアノの伴奏に合わせ、快活な歌声が会場に響きます。

 

明るい呼びかけと軽快なトークで音楽療法ワークショップを盛り上げるのは、「一般社団法人おととも」代表理事で音楽療法士の磯上さん。流れるような進行で、懐かしの音楽の世界に参加者を連れ込みました。

 

おとともさんは、歌や楽器演奏を通じて、シニアの楽しくて健康な生活を応援する活動をしています。

シニアのサークル活動や認知症カフェ、行政の介護予防事業などに出向き、音楽療法の手法を用いて、楽しい時間をつくり出しています。

 

取材では、せせらぎ在宅クリニック(大角豆)で9月12日に開催された「音楽サロン無料体験会」に行ってきました。

同会には、(公社)認知症の人と家族の会茨城県支部代表の牧野さんも駆けつけ、正しく認知症と付き合うための心構えなどについて講演しました。

 

講演に続いて行われた音楽療法ワークショップでは、「虫のこえ」や「手のひらを太陽に」など次々と懐かしの歌を展開。歌いながら、身体を動かす場面もありました。ラップのリズムで単語を発音するユニークな時間もあり、脳トレにもなっている様子でした。

 

「音楽療法は料理のコースみたいなもの」と語るのは磯上さん。

適当に思いついた曲を歌うのではなく、コース料理のように綿密に計画された順番でプログラムは組まれています。

この日は体験会だったので、誰の心にもヒットするような選曲を意識した「洋食コース」。

 

楽器を使った活動も組み込んでおり、参加者一人ひとりに「トーンチャイム」が配られました。トーンチャイムはアルミ合金製のハンドベルで、振ると美しい音色が鳴ります。

 

楽器演奏は、脳トレになるだけでなく、“役割”を持つことができ、なおかつ美しい音楽を作り上げるという達成感が得られるのが魅力。普段演奏をしない人も参加できる工夫があり、「できないよりも、楽しかったと思ってもらうのが私の仕事」と磯上さんは笑顔を見せます。

 

おとともさんは、家に帰っても歌ってもらおうと、歌詞集の提供も行っています。

※ 今回のイベントは助成金を活用して配布いたしました。

 

終始、「楽しく歌って」と参加者に伝えていたおとともさん。

健康に長生きするヒントが音楽サロンにはありそうです。

音楽通じて、過去の思い出や『今』に目を向ける経験を

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「発話も難しかった方が『懐かしいね』って言葉を発した。そんな奇跡のような瞬間に出会って、本格的に音楽療法の道を目指したんです」

 

こう話すのは、代表理事の磯上さん。重度の認知症の人は、音楽しかコミュニケーションをとる方法がないこともあり、そんな人たちと触れ合えた瞬間が磯上さんの背中を押します。

 

磯上さんは、中学生のころから打楽器に打ち込み、一度は音楽の道に進もうと考えたものの、大学では社会福祉を学んだそう。「やっぱり音楽を辞められなくて」と悩んだ末に出会ったのが、「音楽療法士」という在り方でした。

 

その当時は「音楽療法」がまだよく知られていない時代。

どこに相談すれば良いのかも分からず、暗中模索している中、新聞記事で見つけた「筑波音楽療法研究会」に駆け込みました。

 

それから、筑波記念病院重度認知症デイケア「ピンクハウス」(現在は閉鎖)で修業を開始し、民間資格も取得しました。

音楽療法士は、音楽の持つ癒しの力や人と人をつなげる働きをいかして、クライアントのQOL(生活の質)向上を支援。医療現場や高齢者施設、特別支援学校などで活躍しています。

 

「簡単な活動だと勘違いされやすいけれど、誰でもできるものではない」と磯上さん。音楽療法士は、音楽の技術だけでなく、対象者の疾患などに対する知識や抱える課題、患者さんが抱える問題などへの知見も必要です。

 

さらに難しいのは、多様な立場の人への配慮です。

磯上さんが特に気を付けているのは「戦争」の話題。お年寄りの中には、戦中の生活を知っている人たちもいて、戦争の捉え方も様々だそうです。

 

「話によっては、心に傷を残してしまうこともある。怖さがある仕事でもある」と人の前に立って話す際には、それぞれの参加者の受け止め方に気を配ります。

 

一方で、膨大な量の思い出話を耳にするのも、この仕事の醍醐味。「みんな何かしら胸に秘めているものがあって、音楽を通じて思い出す」(磯上さん)

 

「里の秋」という歌は、南方の戦地から帰って来た兵隊さんの名前を読み上げるラジオ番組で使われていました。磯上さんが活動でこの歌を採用した際、実際にその番組を聞いていたと話してくれる人がいたそう。

 

「いろんな思いを聴ける立場で、それは財産になっている。この話を伝えていかないとと思っている」と話します。

 

音楽療法では、過去に目を向けるだけでなく、今現在にも目を向けることを重視しています。「昔のことと今の現実を結びつけることで、今生きていることを感じてほしい」と磯上さんは語ります。

 

おとともさんは、シニア世代の過去をすくい上げ、現在に寄り添います。

地域で広がる音楽サロンの輪、新型コロナウイルスの流行中もつながり続ける

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長年、音楽療法士として地域と関わってきた磯上さんが「地域活動に専念したい」と一般社団法人おとともを立ち上げたのは、2025年4月。ピアニストの椿由香里さんとせせらぎ在宅クリニックの院長とともに設立しました。

 

おとともさんが、講師として参加するシニア音楽サロン「ドルチェ 小野川」さんは、磯上さんが音楽療法士として携わっていた介護予防事業の「脳元気アップ教室」がきっかけで始まった活動です。磯上さんの指導で合唱や楽器演奏を楽しんでいます。

 

ドルチェ 小野川の世話人を務める小林さんは同教室の元参加者。「とにかく感動して、もっと続けたいと思ったんです」と当時を振り返ります。

この活動は、広がりを見せていて、研究学園やせせらぎクリニックでも音楽サロンが始まり、計3か所で展開しています。

 

音楽でつながりを築いてきた磯上さん。

しかし、新型コロナウイルスの流行時には、やり方を変えざるおえませんでした。

 

高齢者が集まって活動することが難しい中でも、「とにかく閉塞感があって、何かやりたいというシニアの方が多かったんです」と、zoomを使用してつながるシニア歌声サロン「ドルチェ  オンライン」を開始しました。

 

オンラインの良さは、入院している人や高齢者施設に入居している人も参加できること。コミュニティから物理的に離れた人たちも、オンラインでなら同じコミュニティで繋がり続けられると気付いたそうです。

ドルチェ  オンラインは開始してから「1回も休まず」続いており、2025年9月のセッションで丸5年が経過しました。

 

また、YouTubeチャンネル「おとともチャンネル」も開設。

「家でもYouTubeを見ながら歌ってもらいたい」との願いでスタートしました。これまでに発信してきた曲は160曲を超えているそう(2025年9月現在)。

ゲストにインタビューをする動画もあり、サロン活動団体や認知症を啓発する団体など地域で活躍する人たちの情報も発信しています。

 

最近は、生配信もスタートしました。

リアルタイムで一緒に歌えるのが魅力。45分間で6曲程度を扱います。

 

おとともさんの活躍で音楽セッションに触れられる機会が増えています。みなさんも大切な人と一緒に音楽を通じた健康づくりをしてみませんか!

この記事に関するお問い合わせ先

市民部 つくば市民センター
〒305-0031 つくば市吾妻一丁目10番地1
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