茨城のパラスポーツ振興を、選手育成や体験会でつながり広げる

更新日:2025年09月29日

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vol.51 茨城パラスポーツ協会(IPSA) さん

パラスポーツのアスリートが競技を続けるための支援を

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茨城県内のパラスポーツ選手たちが、競技を続ける上で抱える困難をなんとか打破しようと立ち上がった団体が、8月に設立1周年を迎えました。

 

茨城でパラスポーツに取り組む選手たちをサポートする「一般社団法人 茨城パラスポーツ協会(以下、IPSA)」さんです。資金面、環境面における選手のサポートやサポートスタッフの人材育成などに取り組んでいます。

 

事務局長でパラカヌー選手の朝日省一さんによると、パラスポーツ選手たちにとって「資金面」の負担が特に重く、競技を続ける上で大きな壁となっているそうです。

 

例えばパラカヌーでは、競技道具が高価であることはもちろん、遠征する際の交通費や宿泊費、食費も自己負担。

また、パラスポーツでは、競技道具の移動などをサポートするスタッフの存在が欠かせません。選手は、そんなスタッフたちの遠征費も負担する必要があります。

 

このほか、練習場所の確保やサポートスタッフの発掘など、多方面でパラスポーツ選手たちは頭を悩ませています。

 

国はパラスポーツの振興や障害者の社会参加を推進するため、全国でパラスポーツ協会の設立を推し進めてきました。

 

茨城県にも、「茨城県障害者スポーツ・文化協会」と「茨城県パラスポーツ指導者協議会」があります。しかし、競技によっては十分な支援を受けられないのが現状。このため、東京都や千葉県の障害者スポーツ協会に所属して競技を続ける県内のアスリートもいるそうです。

 

「茨城のパラスポーツ選手が他県に行ってしまっている」。朝日さんは危機感を募らせ、県にも相談をしてきました。

しかし、具体的な解決策は得られず、朝日さんはついに「だったら(パラスポーツ選手をサポートする協会を)自分でつくっちゃおう」と決意しました。

 

そして2024年8月、パラカヌーやシッティングバレー、車いすバスケなど9人の選手たちとともにIPSAさんを設立。理事はつくば市、土浦市、かすみがうら市の首長たちが務め、行政とも積極的に連携しています。

 

朝日さんは「いつかは全市町村の首長に理事になってもらい、いろいろな場所でイベントや学校訪問をしたい」と意気込みます。

 

特に力を入れているのは、スポンサーの発掘です。活動に共感してくれる企業を探し、地域を巡ります。現在は、不動産関係の会社などがスポンサーとして名を連ねているそうです。

 

「誰もが、いつ障害者になるか分からない」

朝日さんは、ある日事故で突然、障害者になりました。

ただその後、スポーツに取り組むことで、多様な人とのつながりが生まれ、スポーツの持つ力を実感してきたそう。

 

IPSAさんの地道な活動は、誰かの希望となるスポーツとの出会いをサポートしています。

パラスポーツとの出会い、スポーツで広がることってたくさんある

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「競技人口が少ないので『本当に』頑張れば代表になれる楽しみがあるし、スポーツをやることで障害を忘れられる」

 

IPSA事務局長の朝日さんは、2025年パラカヌー選手権大会の日本代表に選出されたアスリート。イタリア・ミラノで8月に開催された世界選手権に出場しました。

 

そんな朝日さんが車いすでの生活となったのは、40代半ばごろ。バイクの乗車中にガードレールに衝突する事故でした。

 

「3回死んでいたかもしれない」と朝日さんは当時を振り返ります。

もし内臓を負傷していたら、もし搬送先の病院が遠かったら、もし切断手術が遅れていたらーー。

 

「神さまに生かされているのかなって思ったら、何も怖くなくなった」

絶望してもおかしくない状況の中、悲壮感に暮れるのではなく「ただ足がなくて歩けない。でも車いすがあれば何でもできると思ったんです」と“できること”に目を向けました。

 

入院中にリハビリ用のプールで泳いでいたという朝日さん。退院すると国体の水泳競技へ出場。なんと予選で1位を獲得したといいます。

しかし、「つまらないな」としっくりこなかったことから、いろいろな競技に挑戦し始めます。

 

「シッティングバレーボールに車いすテニス、いろいろやりました」という朝日さん。中でも気に入ったのはカヌー。「水の上じゃめっちゃ気持ちいいっすよ。最初は息子と2時間くらい浮いて遊んでたんですけど、選手をやれって言われて、じゃあやってみるかって」(朝日さん)

 

「パラスポーツでいろんな人と出会えて楽しい。スポーツで広がることって本当にいっぱいある。若い世代にもスポーツを通じてつながりを広げてほしい」と朝日さんは願いを込めます。今年は、8月までに2度の海外大会に出場し、つながりは世界にまで広がりました。

 

一方、朝日さんは「自分が障害者になったとき、門戸が狭かった。どこで情報を得られるのか分からなかった」とパラスポーツを始めるきっかけの少なさを指摘。「協会に連絡をもらえれば、パラスポーツを紹介したり、どんなスポーツができるか一緒に考えたりします」

パラスポーツを通じ、人と人がつながる可能性は無限大

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「パラスポーツは障害者だけのスポーツではない」

朝日さんは、障害も年齢も関係なく、スポーツでつながり合う社会を見据えます。

 

IPSAさんは「障害者を知ってもらいたい」と所属選手たちが講師役となり、小学校でのパラスポーツ体験会や企業向け研修会も展開。障害者が生活で直面する問題などを知ってもらうことを通じ、バリアフリーなまちづくりも目指します。

 

このほかにも、サポートスタッフ発掘と育成のために、医療系の学生をイベントに誘っています。「就職後も職場でサポートスタッフの輪を広げてくれたらうれしい。患者さんがパラスポーツをやりたいと言うかもしれない」と朝日さんは願いを込めます。

ちなみに、医療系のボランティアだけでは、足りていない状況のため、企業からのボランティアも募集しています。

 

「いつかは、この協会でパラリンピックの選手まで育てたい」と朝日さん。資金面などの課題から競技の継続を断念するジュニアの選手もいるそう。「国内でトップレベルになればアスリート雇用があって、働いた分を活動に回せる。そのレベルになるまでが大変で、ジュニアの子たちがそこに行くまでのサポートをしたい」と話します。

 

また、IPSAさんの最終目標は「障害者スポーツセンター」を県内につくること。

 

障害者スポーツセンターとは、障害者が優先的に利用できる体育施設。安価な利用料金や施設内のバリアフリー、パラスポーツの競技で必要な道具や設備が整っているのが特徴。例えば、多目的トイレを多く設置したり、陸上用の車いすを貸出したりします。

 

朝日さんは「IPSAの活動を通じて社会の生活環境をもっとバリアフリーにしたり、練習場所を確保したりして、若い選手がもっと活動しやすくしたい」と若手選手へ思いを馳せます。

 

選手がのびのびと競技に打ち込めるまちは、誰もが暮らしやすいまちづくりの一歩になるはず。

 

スポーツを通じたまちづくりに期待が高まります。

仲間を募集しています

IPSAさんでは協賛・支援に加え、年齢も障害も関係なく、一緒にスポーツを楽しめる仲間を募集中です。

例えば、朝日さんと一緒にカヌーをしてみませんか?

 

お問合せはメール(ipsa.sports@gmail.com)で受け付けています。

この記事に関するお問い合わせ先

市民部 つくば市民センター
〒305-0031 つくば市吾妻一丁目10番地1
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