“がん”体験をいかし、病と共に生きる人を支える
vol.43 ピアサポートつくば さん
医療従事者だけでは解決できない不安や心配に寄り添う

▲ピアサポートつくばの山田さん(左)と中野さん
“がん”は、日本人の2人に1人が生涯で罹患すると言われている身近な病です(国立がん研究センター)。
平均寿命が延び、「病気とともに生きる」時代になってきました。
「いつか自分もがんになるかも」とは思いつつ、その不安や孤独を想像するのは、難しいことではないでしょうか。
がん体験者でつくる「ピアサポートつくば」さんは、その体験を活かして、がんと診断された方やその家族、友人に寄り添う活動をしています。
「ピア」というのは“仲間”という意味。
ピアサポートつくばさんは毎月1回、筑波メディカルセンター病院で「ピアサロン」を開催し、同じ体験者だからこそ聴いてほしいことに耳を傾けたり、自身の経験を伝えたりしています。
実は茨城県は2008年、全国で2番目にピアサポート事業を開始しました。専門の相談員や医療従事者だけでは解決できない悩みに対して支援する動きが始まったそうです。
当時、つくばでは乳がん検診の啓発する「NPO法人つくばピンクリボンの会」さんが既に発足しており、県のピアカウンセリング事業も担っていたそうです。
ピンクリボンの会理事で、ピアサポートつくばのメンバーでもある山田さんは「ピアサポートは地域に根付いてきている」と県と足並みをそろえて歩んできた長年の活動を振り返ります。
ピアサポーターの活動の場は、茨城県が認定するがん診療連携拠点病院等です。県内のがん診療連携拠点病院ごとにピアサポート相談窓口があり、サロンの開催や個別での相談を受け付けています。ちなみに、通院先以外のピアサポート相談窓口も利用できます。
ピアサポートつくばさんは、2012年から筑波メディカルセンター病院のピアサロンの運営の委託を受けているそう。
特徴は、予約不要なこと。
「予約はやはり敷居が高いので『当日参加でも良いですよ』と呼び掛けています。体調によっては急に参加できなくなることもありますし」と広報担当の中野さんは話します。
途中で入退場しても良いので、通院や検査の合間に参加する人もいるそう。
家族にも話せない思いを抱えている人も少なくないそう。
「第三者の同じ体験者だからこそ話せることもある」とピアサポーターの方々は語ります。
サロンに参加する人たちは、漠然とした不安や心配を口に出したり、ほかの人の経験を聞いたりして、頭の中が整理されていくことも。「私だけじゃない」。そう勇気づけられ、明るい表情になって帰っていくそうです。
ピアサポーターさんたちは、そんな大切な過程に寄り添っているのです。
がんと向き合い「生かされた」経験をいかしたい

▲ピアサロンを開催している筑波メディカルセンター病院(ピアサポートつくばさん提供)
死ぬかもしれない――
ピアサポーターとして活動する方々は、そんな恐怖を抱えながら‟がん”と向き合った経験を経て、今を生きている方々です。
「まず生存率を調べたんです」
ピアサポートつくばのメンバーのひとりは、がんと診断されたときのことをこう語ります。
いつもどおり参加した人間ドックでがんが判明。がん家系だったこともあり「やっぱりきたか」と思ったそうです。
当時は仕事に打ち込んでいる最中。仕事は辞めたくないと主治医と相談しながら、治療の計画を練ったそうです。
昔と比べてがんの早期発見が進んだことで、働く世代や子育て世代でがんと向き合っている人も増えています。
ピアサポーターとなった今では、働きながら病気と向き合ってきた経験を「隠すだけでなく、どういかしていくか。経験をプラスにも変えていければ」と考えているそうです。
ピアサポーターになるには、茨城県では2年に1回開催する「がん患者ピアサポーター養成研修会」を受ける必要があります。研修では、がんや傾聴への理解を深めます。
「話を聴くということは簡単なことじゃないんです」
ピアサポーターの山田さんはそう静かに語ります。
サロンで傾聴する中で、自身も辛くなってしまうこともあるそうです。
そんな時は、ピアサポーター同士で話を聴き合って、暗い気持ちを持ち帰らないようにしているそうです。
“がん”と向き合った当時の経験も、ピアサポーターとして経験した気持ちの揺らぎや変化も「これも一つの経験」と大切にしている姿が印象的です。
筑波メディカルセンター病院で開催しているピアサロン
日時:第3木曜日
午後1時30分~3時30分
場所:筑波メディカルセンター病院
TMCホール(メディカルスクエア3階)
主催:筑波メディカルセンター病院 患者家族相談支援センター
委託団体:ピアサポートつくば
☆参加費無料 ☆予約不要
≪お問合せ≫
電話 029-858-5377(平日午前9時~午後5時)
メール peertsukuba@gmail.com
病院と連携しながらサポート、『話してくれてありがとう』の気持ち

ピアサロンは、安心して話せる場所です。
サロンで聴いた内容は家族にも話さない、録音をしない、SNSなどで発信しない、無理な勧誘などはしない――というルールで行っているそう。
また、ピアサポーターたちは、医療に関しては「口を挟まない」のが原則。
「経験したことは話すけれど、『こうした方が良い』みたいなことは言いません」と心構えを語ります。
“がん”を取り巻く知見や治療方法は、日々変化しています。「根本的な気持ちの面は共有できることがあるけれど、最新の治療に関する経験は話せないこともあるの」とベテランのピアサポーターは語ります。
相談内容は、治療に関する不安のほか、医療者との相性や制度に関する悩みもあるそう。
ピアサポーターさんたちは、適宜ソーシャルワーカーさんやがんに詳しい看護師たちとも連携して、より良い相談環境をつくろうとしています。
「人生の話を聴かせてもらっている。心の中を全て分かることはできないけれど、気持ちを吐露してくれたことに『ありがとう』という気持ち」とピアサポーターたちは活動を振り返ります。
がんと共に、いかに人生を謳歌していくのか。
ピアサポーターの方々は、サロンに訪れる人たちと向き合いながら、学び続けていると言います。
辛さを伴う経験は簡単には口に出せないかもしれません。
それでも、いつでも寄り添ってくれる人が地域にいることを頭の片隅に留めていたいと思います。
茨城県内のサポートを知りたい方へ
取材で、県が発行する「令和6年 いばらきのがんサポートブック」を見せていただきました。
これは、“がん”と診断されたとき、当事者やその家族がこれからどうすれば良いのか考える上で役立つ情報をまとめた冊子です。
冊子では、一番目に「がんに関する相談窓口」が取り上げられており、相談事業やピアサポーターさんたちの活動の重要性がうかがえます。
茨城県のホームページでも公開しているので、ぜひ皆さんもご覧くださいね。
この記事に関するお問い合わせ先
市民部 つくば市民センター
〒305-0031 つくば市吾妻一丁目10番地1
電話:029-855-1171 ファクス:029-852-5897
更新日:2025年07月14日