地域の文化遺産を千年先まで、歴史や防災考える場にも

更新日:2025年03月24日

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vol.31 NPO法人“矢中の杜”の守り人 さん

時代を超え、人を魅了し続ける近代和風住宅

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筑波山麓にある北条地区の街道を行き、きれいに整備された小道に入ると、その邸宅は見えてきます。

 

モダンな山吹色の外壁に木造で温かみのある佇まい。

 

北条出身の建材研究家であり実業家の“矢中龍次郎”さんがこの邸宅を建てたのは、なんと戦争の影響もあった昭和13~28年だそうです。

 

湿気の多い日本風土でも長年耐え続ける邸宅を目指して設計された「実験邸宅」「千年邸宅」でもあり、通気を良くするなどの工夫が随所に見られます。

 

その設計だけでなく、職人の腕が光る板戸絵や銘木、調度品も見事。居間やキッチンなどでは、昭和の暮らしをうかがわせる貴重な品々も見ることができます。

 

邸宅は「矢中御殿」として知られていましたが、龍次郎氏の亡き後、約40年間空き家だった時期があるそう。

 

長く眠っていたこの邸宅を「矢中の杜」として再生し、保存や活用をする事業を展開しているのが「NPO法人“矢中の杜”の守り人」さんなのです。

 

再生活動は、2008年に所有者が変わったことをきっかけに、所有者と邸宅に一目惚れした筑波大学の学生、地域メンバーたちが協力して始まりました。

 

取組みは2010年、NPO法人を設立するまでに成長。2011年には邸宅が国登録有形文化財に。そして、2023年には国指定重要文化財に指定されました。

 

文化財になったことは、東日本大震災などの影響を受けた後に建物を保存し続けるためにも役立ったそうです。

 

同NPOのメンバーは「矢中の杜」をより多くの人に体験してもらおうと、毎週土曜日を中心に邸宅公開を行ったり、一緒に保存活用事業をする会員を募集したりしています。

 

時代を超え、人を魅了する龍次郎氏の意匠。

意図してか、意図せずしてか、建物を通じて「人が集まる場」も生み出されています。

各メンバーの興味関心が生む、魅力的な文化財の活用

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来館者に矢中の杜を案内する大学生ガイド=つくば市北条

 

「木造建築の欠点が2つあるのですが、何だと思いますか?」「龍次郎は『マノール』という防水性のある建材を開発しました」「これはモミジの床柱です」

 

取材の日、はきはきと邸宅内を案内してくれたのは大学生の公式ガイドさんです。龍次郎氏の功績や設計の工夫、貴重な調度品などについて細かに解説してくれました。

 

同NPOのメンバーは大学生からシニアまで万遍なくいます。大学で会員募集を知ったり、見学で一目惚れしたりと様々な経路でメンバーになるそうです。

 

メンバーは矢中の杜を「千年先まで残す」という同じ目標に向かっていますが、「家具」「芸術」「庭」「食器」などそれぞれの関心は様々な分野に向いています。

 

「ここ(矢中の杜)は残すべきだとメンバーは皆思っていて、そのためには何ができるかそれぞれが考えている」と事務局の中村さんは話します。

 

そのため、草むしりや学生サークルによる焼き物展示、掛け軸の掛け替えなど「この場所でやりたい」とそれぞれが思ったことを行動に移しているそう。

 

一方で「残す」という目標以外に「〇〇をしなきゃいけない」と縛るものがないゆるさもあります。

 

この程よくゆるい関係性や空間自体の魅力が、「居心地がいい」とメンバーたちは口をそろえる理由のようです。

 

地域住民の方は「(いろんな人たちを)建物が仲介してくれている」と表現します。

 

龍次郎氏が遺したのは建物だけでなく、人が集まることで生まれる“目に見えない何か”かもしれませんね。

 

矢中の杜の保存活用に参加する会員には、正会員と一般会員、賛助会員の3種類があり、それぞれのペースで関わっているそうです。ご興味のある方は、まず矢中の杜を見学し、その空間を体験してみてはいかがでしょうか。

文化財を通じて地域の防災を考える、龍次郎氏の遺産を次の世代へ

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矢中の杜は国指定重要文化財となったことで、防火対策などへの取り組みが急がれています。

 

今年の夏ごろにも自動火災報知設備の工事が始まるそうです。

 

ここで課題となるのが、防災のための整備にかかる多額の費用です。国などからの補助金はあるものの、自己負担金を集めるのは簡単ではありません。

「防災関係の整備は序の口」と資金集めに気をもみます。

 

そこで、工事に向けて【クラウドファンディング】を実施予定だそうです。

 

また同NPOは、防災への取り組みを単なる施設整備で終わらせるのではなく、地域の学びの機会にもしようと考えています。

 

「地域の文化遺産を守るために、みんなで地域の防災を担っていく。なにかあったときに備えたネットワークづくりをしたい」と前を向きます。

 

矢中の杜の邸宅ではガイドさんでも新たな発見が毎回あるそうで、魅力が尽きません。

 

事務局長の中村さんは「地域の歴史や文化をみんなで知って、みんなで守っていけたら」と語ります。

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同NPOのメンバーたちは「千年先はここにいる人は誰も生きていないけど」と冗談めかしく話します。

 

しかし、龍次郎氏が遺した夢が今を生きる人たちの活力になっているように、同NPOが新しく抱いた夢も未来の誰かの挑戦に繋がるのではないでしょうか。

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