絵本を届けることは、誰かに会いに行くこと

更新日:2026年09月14日

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Case 20. 原田まゆみ さん|移動する絵本屋『旅する絵本屋 3po(さんぽ)』

黄色いバンに絵本を積み込み、様々なイベントへの出店や、絵本の読書会、まちなかでのシェア型本棚運営など、「絵本」を軸に様々な活動にチャレンジする『旅する絵本屋3po』の原田さんのクラフトライフストーリーを紹介します。

原田さんと黄色いバンの軒先

『旅する絵本屋 3po』の目印にもなっている黄色のバンで出店する原田さん(提供写真)

地元で保育士に就職してから、絵本を集め始める

原田さんは、愛媛県の新居浜市で生まれ育ち、地元の保育所に保育士として就職された頃から、気に入った絵本を購入して手元に集めるようになったそうです。

「子どもたちに読み聞かせるようになって、絵本にはいろんなタイプの作品があることを知りました。国内外の作家さんの名前も調べて覚えるようになり、いいなと思った絵本は個人的に購入していました。気がつけば、実家で置き場に困るほどの数になってました」と振り返ります。

この買い集めた絵本たちや絵本の世界に関する知識が、後に「資本」となって現在の原田さんの活動に繋がっていきます。

原田さん

原田さんがつくば市内で主催する絵本の読書会にて

たくさんの絵本

絵本の読書会で持ち寄られた絵本たち。この回のテーマは「雨」でした

子育て環境の大きな変化で始めた「読み聞かせ」活動

原田さんは地元の愛媛で結婚された後、民間企業で研究職に従事されているご主人の転勤を機につくば市内に引っ越し、専業主婦として二人の子育てをされます。

上のお子さんが、2012年4月に開校したつくば市内の小学校に入学しますが、その前年の東日本大震災の影響で図書室に本が揃わず、揃う見通しもつかない状況となっていました。また、原田さん自身もご主人が海外転勤となり、2012年12月に家族で初めてシンガポールに引っ越すことになるなど、大きな変化に見舞われます。

お子さんが編入したシンガポール日本人学校では、学校への図書の寄贈や有志の保護者の「図書ボランティア」による読み聞かせなど、「本」に関する活動が活発に行われていることを原田さんは知ります。一方、つくばではお子さんが通っていた小学校で友人の保護者たちが「図書室に本が揃わないなら、自分たちでできることをやろう」と発起し、朝の時間を使って児童に本の読み聞かせを行う活動を始めていました。

その話を聞き、原田さんは「日本に戻ったら私も手伝うね」と友人に伝え、シンガポールで「図書ボランティア」として読み聞かせに参加し、熱心に取り組まれます。

原田さん

シェアスペース「マインドシフトライフ つくばステージ」(MeeToco N 2F、つくば市学園の森3丁目)などで絵本読書会を開催している原田さん

「読み聞かせ」での新たな発見

「図書ボランティア」は、小学1年生から6年生まで全学級を対象に、教室で朝の会の15分を使って、学年に応じた本を選び、保護者(元保護者も参加)のボランティアが読み聞かせる活動です。(活動当初は小学1年生から4年生まで)

「保育士時代の読み聞かせは、乳幼児の0歳児から4歳くらいの子どもたちを対象に隣でページをめくりながら『バリバリバリ』『ザザザザ』といったオノマトペを一緒に声を上げて読み上げる感じでした。ところが、話の内容を理解できる小学生への読み聞かせは、同じ本でも学年によって反応が異なり、自分の子どもたちに読み聞かせをするのとはまた違った手応えや面白さをその時に知りました」と語ります。

また、物心つく前から南国で育ち、日本の四季を知らない児童もシンガポールの日本人学校には多かったそうです。

「春の桜や秋の紅葉、冬の雪景色など日本では当たり前の景色を私が読み上げた絵本で初めて知って、それで興味を持ったというお子さんもいらっしゃいました。絵本の絵や言葉には、見たことも触れたこともない季節を伝える力があることを実感しました」と振り返ります。

読み聞かせをする原田さん

読書会では、参加者の方からのリクエストで作品を読み聞かせすることも

本を読みたくなる「ブックトーク」との出会い

2016年にはシンガポールからつくばに戻り、原田さんはお子さんが再び編入した小学校で、友人たちの読み聞かせ活動に加わります。

この頃には学校の図書室にも本がちゃんと揃い、活動内容も少し変わり、低学年は「読み聞かせ」、高学年では本の概要や魅力を紹介し、児童にその本を読んでみたいという気持ちを引き出す活動「ブックトーク」が朝の会の一枠に取り入れられていました(注)。

原田さんは、読み聞かせだけでなく、子どもたちが自主的に本を読むことを狙いとするこの「ブックトーク」にも挑戦することになります。

大人の絵本カフェの様子

(注)2026年現在、この小学校(つくば市立春日学園義務教育学校)では、読み聞かせ活動を行う『おはなしキャラバン』と、学級文庫のような役割を担う『ふくろう文庫』の二つの活動として引き継がれています。

本と人をつなぐ場づくりを、自分で

小学校での活動は朝の短い時間で終わり、参加する保護者も家事や仕事があり、ゆっくり話をする機会がありませんでした。原田さんは、「学校以外の場所で、絵本についてもっと気軽に語り合える場所があったら」と考えるようになります。

ちょうどその頃、研究学園駅前にコワーキングスペースが開業し、そこに通っていたところ、「○○カフェ」のような集まりを開ける人を募集しており、「何かやってみませんか?」と声をかけられました。興味を持った原田さんは、絵本の読書会の構想を話してみたところ、運営者側も快諾してくれて『大人の絵本カフェ』を始めることになりました。

大人の絵本カフェの様子

『大人の絵本カフェ』は、参加者が好きな絵本を持ち寄って、お茶を飲みながら、おすすめを紹介したり、子どもたちに読み聞かせた時の反応や大人になって読み返した時の感想など、自由にお話ができて、共有できる場です。

最初は、読み聞かせ仲間や友人が参加していましたが、地域情報誌で紹介された後に急に参加者が増えたことがありました。「参加人数が多くなった時、会話が分散したりグループに分かれてしまうのが気になったんですね。絵本を中心に、みんなで一つの話題を共有する雰囲気を大事にしたいなと改めて気づき、6~7人くらいでの開催がベストだねとか、回数を重ねて今の形になりました」と語ります。

月次や季節でテーマを決め、お互いにおすすめの絵本を紹介したり、絵本の朗読を毎回1時間程度行い、原田さんが学校で行ってきた読み聞かせと「ブックトーク」を大人向けにアレンジした『大人の絵本カフェ』は、2026年で9年目になりました。

原田さん

マルシェ出店者のお誘いから「旅する絵本屋」に

こうした「本活」を行うようになってから、ある日、保育士時代から集めていた絵本が愛媛の実家からつくばにまとめて送られてきたそうです。「いつか送ってね、とは言っていたんですけど、一気に届いてしまって...」

ちょうどその頃、つくば市内の研究学園駅前公園で友人が絵本の読み聞かせなど親子向けの企画も盛り込んだ小さなマルシェを始めることとなりました。その友人から「絵本も持ってきてみたら?」と声をかけられ、本を箱に詰めて自家用車で運び、テーブルに絵本を並べて出店したことが、「旅する絵本屋」の始まりでした。本を並べていると、足を止めて絵本を手に取って子どもと一緒にページをめくるお客様や、絵本の読み聞かせに耳を傾ける親子、マルシェの出店者同士など、原田さんは「本」を通じて日々、様々な人々と出会うようになりました。

マイクロバスを改造した移動型書店に衝撃

研究学園駅前公園のマルシェに出店していると、周辺市で地域イベントを企画している人とつながり、誘われてそこに出店するとまた別のイベントにも呼ばれて...という形で、原田さんの活動範囲も次第に広がり始めました。

ある日出かけた本のイベント先で、マイクロバスを改造した移動書店と出会います。長野県の上田市を拠点に国内各地に出店している方々で、その存在自体が魅力ある会場の雰囲気づくりに大きく貢献している光景を見て「こういう形で本を届ける方法もあるんだ」と原田さんは衝撃を受けます。

「自分もこんなクルマで出店してみたら楽しそう!」と思いましたが、原田さんの場合、取り扱うものは絵本が中心で冊数も限られていること、運転や保管場所を考えると大型車両は現実的ではないこと…など条件の違いを冷静に整理し、『旅する絵本屋3po』の象徴にもなっている黄色い軽貨物のバンを選ぶことにしました。

出店する原田さん

また、コロナ禍を経て、公園など屋外でのイベント会場が増え、車両ごと出店区画に乗り入れられる機会が以前より増えたことも原田さんにとって良いタイミングとなります。

「テントで出店する時、基本的に絵本に興味がある人しか立ち寄らない傾向がありますが、黄色のバンで出店すると、みな車に目を留めて立ち止まり『この車、何の車ですか?』などと声を掛けられることが急に増えていきました。あるイベントでは、絵本に興味があまりなさそうだった初老の男性が車に関する会話の後で、絵本を手に取り『孫のために一冊買って帰るよ』といった形で、絵本が売れた時もあった」と語ります。

その後も、埼玉県の三郷市で毎年開かれる、全国各地の移動型本屋が集合するイベントに出店したり、そこで知り合った人から無店舗型の本屋が集まる催しに誘われたり、絵本を介してつくば市在住の音楽家の方とつながり、子ども向けの音楽イベントの出店に誘われたりと、「旅する絵本屋」は様々な場へご縁の広がりとともにツアーを重ねていきます。

ページの向こうに、自分を見つける

「絵本は子どもだけのものではない」と原田さんは思っています。誰かへ贈るためだけのものでもなく、自分自身のために絵本を手に取る大人も最近は少なくないそうです。「幼い頃に親しんだ一冊を偶然見つけ、懐かしそうにページをめくる人も結構いますよ」と原田さんは言います。

旅する絵本屋は「絵本を売るというより、その人に合う一冊との出会いを手渡す感覚に近い」と原田さんは考えており、通りがかりの人がバンの前で立ち止まったら、その立ち止まっている時間、本棚に向ける視線、手に取る絵本の傾向、そうしたことからその人がどんな絵本を求めているのかを想像するそうです。

物語の展開に心を動かされる人もいれば、ページいっぱいに広がる色彩や、作家独自の表現に惹かれる人も。同じ一冊でも、記憶に残る場面や受け取り方は、一人ひとり違います。おすすめを尋ねられたとき、原田さんはまず相手の様子を見て、話に耳を傾けます。そして、元気をもらいたいように見える人には背中を押してくれる一冊を、少し疲れて見える人には静かに寄り添うような一冊を勧めてみるのだそうです。

原田さん

読書会が始まる前に、今回のお茶とお菓子を用意する原田さん。

本棚から広がる小さな本屋の輪

原田さんは、最近、つくば市小田地区のコミュニティカフェ『TAMARIBAR(タマリバ)』の一角で『あつまる本屋』というシェア型書店の運営を始めました。原田さん自身が都内のシェア型書店で棚を借りていて、半ば趣味的に楽しみながら運営している経験も生かされている取り組みです。

複数の本箱を集めた「本棚」をカフェ内に設け、本箱は一つずつ棚主を募り、棚主が選書した本を来店者が購入できる仕組みです。好きな小説を集めた棚もあれば、暮らしに関する本を並べた棚もあり、各棚はその棚主の価値観や人生の断片が表れています。

小田地区は少子高齢化が進んでいる地域でもあるため、本を軸に、人の移動と波及効果も意識して取り組んでいます。「棚主の売り上げは振り込みではなく、『TAMARIBAR』に必ず、足を運んでいただいて直接お渡しすることにこだわっています」と話します。

原田さんは、なるべく棚主と顔を合わせて話をする機会を大切にしています。最近読んだ本、どんな思いでその本を並べたのかなど、本棚をきっかけに交わされる会話から、新しい本との出会いが生まれることもあります。「どんな人が、どんな本を置いているのかを知るのも楽しいんです。『あつまる本屋』の本棚は単なる販売スペースではなく、本を介して人がつながり、それぞれの興味や価値観がゆるやかに交わる場所でもありたい」といいます。

あつまる本屋の写真

つくば市小田地区の『TAMARIBAR』の一角にオープンした『あつまる本屋』。たまに覗きに行ってみたくなる棚です。(提供写真)

「動かない本屋」を試しにやってみる

「旅する本屋」を始めてから、「動かない本屋」をやることも一度は試したいと原田さんは考えるようになります。そこで、2024年につくば市が実施する事業で、市が運営する施設でお試し出店ができる「周辺市街地チャレンジショップ事業」を活用し、つくば市吉沼にあるチャレンジショップ『吉沼まちかどテラス』で半年間の店舗運営に挑戦したこともあります。

この出店を通じて、原田さんは改めて「私は『待つ』よりも、『届ける』方が性に合っているんだな」と思ったそうです。人に来ていただくには情報発信が重要なことも改めて実感し、「自分にとって「大変だな」と思っていたことを出店で体感したことで、これまで続けてきた『旅する絵本屋』の価値を見直すことができた」と振り返ります。

チャレンジショップの写真

つくば市吉沼地区にあるつくば市のチャレンジショップ『吉沼まちかどテラス』に原田さんが出店された時の様子。(提供写真)

「一人で出るより、二人で出ませんか」

また、チャレンジショップに出店したもう一つの収穫は、同時期に出店していた地域の異業種の事業者とのコラボレーションです。ある時、イベントでの移動販売に関心を持っていたベーグル店の方から、「一人で出るより、二人で出ませんか」と誘われ、初めて異業種の方と一緒に出店することがありました。同じ地域で活動する異業種同士が、緩やかに横でつながる機会は、こういう場がなければ得難いものだったといいます。

一方で、公的な補助制度を活用するために必要な手続きの大変さも実感したそうです。補助金申請や各種手続きに向けた準備として、必要な資料を作成したり、自分の考えや計画を言葉にして伝える作業は、想像以上に時間と労力がかかりました。

こうした経験を経て、原田さんは「最初から大きな目標を掲げて自分を追い込むようにして物事を進めるのではなく、その時々でできることを一つずつ積み重ねていく。そうした歩み方こそ、自分らしいと感じた」と話します。

すべての子どもに、絵本との出会いを

原田さんが保育士の頃から抱いてきた大きな願いが2026年11月に実現しようとしています。それは赤ちゃんに人生で初めての絵本を届けるつくば市の活動「ブックスタート」です。

原田さんは「絵本に関心がある家庭は、自ら絵本を探して、手に取ることができますが、そうではない家庭もある。だからこそ、すべての子どもに絵本との出会いのきっかけがあってほしい」と考えていました。また、「親子が一緒に絵本を開き、同じ時間を共有する。その最初のきっかけを届けることに意味がある」とも思っていました。

2026年11月に、つくば市こども政策課とNPO団体との協働によって、つくば市としても初めてとなる「ブックスタート」イベントが始まることとなり、その開催を原田さんは「旅する絵本屋 3po」としても応援しています。

ブックスタートのチラシ

「1歳6か月健康診査」を受診される親子に絵本をプレゼントし、読み聞かせをするブックスタート事業をつくば市は2026年11月から開始。子育て世帯が多いつくば市内でも大きな注目を集め、読み聞かせボランティアには沢山の方に応募いただきました。

届け続けた先に見える未来

「先の未来は、まだはっきりとは見えていない」という原田さんですが、次の展望として、絵本を売るだけではなく、読むこと、語り合うことができ、新たな出会いが生まれる場所「絵本ラボ」の構想があるそうです。

移動しながらも、帰ってこられる場所。絵本の「読み聞かせ」から始まった原田さんの旅は、まだまだ続きそうです。

原田さん

取材・文・編集:つくば市広報戦略課
写真撮影:鈴木茂樹(白と水と糸)

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