「コーヒー屋になる」をつくばで実現

更新日:2025年08月27日

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Case18. 鷲尾 祥規(わしお よしき)さん|コーヒー店『WASHI no COFFEE』

つくば市みどりの地区で、自家焙煎のコーヒーと手作りのスイーツを提供する「WASHI no COFFEE」(ワシノコーヒー)を営む鷲尾さん。「35歳までにコーヒー屋になる」という目標を立て、地元の新潟、東京、福岡で様々な職業経験を積んだ後、結婚を機につくば市に移住。市の創業者向けチャレンジショップ「吉沼まちかどテラス」やマルシェ等に出店を重ね、2025年5月に開業した、鷲尾さんのクラフトライフストーリーを紹介します。

店の入り口で記念撮影する鷲尾さんの写真

お店の入り口に立つ鷲尾さん。ワシの看板が目印。

「これからの生き方」を変えた、一杯のコーヒーとバリスタの表情

鷲尾さんがコーヒー屋を志したのは、地元の新潟で就職した自動車ディーラーに勤めていた時、プロのバリスタを招き、車の点検や商談で訪れたお客さんに本格的なコーヒーを提供するというイベントでの出来事がきっかけでした。

当時24歳だった鷲尾さんは、営業マンとして働いており、同期の中では相応の成績をあげていたものの、社会人2年目の頃から心身の調子を崩すようになっていました。イベントでお客さんが次々とコーヒーブースに集まり、笑顔でコーヒーを飲んでいる光景や、楽しそうにコーヒーを提供するバリスタの表情を見た時、「こんな風に働く人もいるのか」と衝撃を受けます。

イベントが終わり、スタッフに振る舞うためにバリスタが淹れてくれた一杯のエチオピアのコーヒーを鷲尾さんが口に含んだ瞬間「なんだ、このフルーティな飲み物は…」と初めて味わうタイプのコーヒーの味に感銘を受けます。そして昼間のイベントの様子も思い出しながら「このままの人生ではダメだ、自分らしくない」と思い、コーヒー屋になることを決意します。

コーヒーをドリップする鷲尾さん

「コーヒーを淹れているところを観るのが好きなので」と客席から見えるオープンなカウンターで注文を受けて一杯ずつ抽出する

尊敬する地元カフェのオーナーをメンターに、10年計画で挑戦を開始

鷲尾さんは元々コーヒーが大好きで、理想とするコーヒー店のオーナー像がありました。それは当時よく通っていた新潟県長岡市のカフェのオーナーの方です。お店の雰囲気の良さやコーヒーの美味しさはもちろん、どんなお客さんとも楽しく接するオーナーの人柄、豊富な知識や人生経験、生き方に憧れを持っていたそうです。

コーヒー豆をつかったドライフラワーのポット

鷲尾さんはカフェに通いながら、オーナーと雑談する中で、店舗の設備やコーヒーに関すること、35歳の時にカフェを開業した経緯など、いろいろなことを教わります。

そして「人生経験が少ない今の自分と会話をして、お客様は楽しいのだろうか。コーヒー店を開業する前に、もっといろんなことを経験しなければ」と自問し、コーヒー業界にすぐには飛び込まず、オーナーが開業した35歳を一つの目標として「ちょっと回り道でも、あと10年は自分自身を磨くための期間にしよう」と決め、動き始めます。

豆が並ぶカウンター
お客さんにコーヒー豆の説明をする鷲尾さん

オープンしたばかりで初めてのお客様がほとんどだが、市内のイベントへの出店等で知り合った出店者さんのつながりや紹介で訪れるお客様も多い

地元を出て東京へ、キャンプで自家焙煎に目覚める

ちょうどそのタイミングで、地元の有名企業「スノーピーク」の採用募集を鷲尾さんは見つけます。大学で環境分野を学び、学生時代から登山に親しんでいた鷲尾さんは、自然やアウトドアにも関心があり、改めて会社について調べていくうちに興味を持ち、エントリーすることにしました。

「今思えば、とんでもない受け答えだった」と振り返りますが、鷲尾さんは「10年後にはコーヒー屋になります。それまで好きなことをとことんやっていきたい」と採用面接の場で発言します。その正直さと情熱が響いたのか、「新規事業で飲食部門を東京の昭島市で始めたところなのですが、そちらでやってみませんか?」と予想外の反応と提案を受けることになります。

木製のフェンスに張られたアウトドアテイストのお店のバナーの写真

「自然と関わる仕事」と将来に繋がる「飲食」という二つの職業的な経験を同時に得られるという期待から「行きます」と即答し、バリスタに出会ったイベントから4ヶ月後、鷲尾さんは東京で働くことになります。

スノーピークに入社してから、鷲尾さんは休日によくキャンプをするようになりました。コーヒー店で豆を購入し、自然の中で淹れて飲むことが至福の時間となり、様々なコーヒー豆や焙煎、コーヒー店に関する知識をアウトドアで広げていきます。

車止めの木をを固定するペグの写真

キャンプでテントを張る時に使う「ペグ」を駐車場の車止めの資材に使っているところにも、アウトドアの世界観が。

福岡へ移住するも、新型コロナウイルスの影響で想定外の事態に

2018年頃、数多くのコーヒーショップが密集する福岡の街を紹介する雑誌を読んで興味を持った鷲尾さんは、3泊4日で九州のコーヒーショップを巡る旅行に出かけます。実際に足を運んで知ったコーヒー文化、食のレベルの高さや街の雰囲気に魅了された鷲尾さんは「いつかこの場所で本格的に修行を積みたい」と思うようになり、2020年、東京での仕事を辞めて福岡へ移住します。

しかし、鷲尾さんが福岡に移住して間もなく、新型コロナウイルス感染症が拡大、緊急事態宣言が出されます。飲食店が次々と休業や店舗縮小に追い込まれる未曾有の事態となり、福岡で予定していた面接は次々と中止になってしまいます。鷲尾さんは生活を繋ぐためにチェーン店でアルバイトを始めますが、時短営業が続いて収入も厳しくなり、アウトドア関連の会社に社員として再就職することを余儀なくされます。

自家焙煎して挽いた豆を投入する写真

この逆境の中、自分の夢を着実に進めるための手段として鷲尾さんは「焙煎」に取り組みます。手回し型の焙煎機より安定した焙煎ができ、データ分析もできる家庭用の焙煎機を自己投資として購入し、長引く外出規制の中、自宅で豆を焼き続けます。そして焙煎のコツをデータ的に掴んできたところで「最終的には業務用のものを使うなら」と、現在も使っている業務用焙煎機を思い切って購入し、さらにスキルを磨いていきます。

ドリップする写真

新天地は「つくば」、オンライン販売から実店舗へ

鷲尾さんは結婚を機に、今後の人生を見据えて、自分の店を出す拠点を九州ではなく、関東方面で探すことにしました。キャンプやドライブで訪れたことがあり、何かと縁を感じていた場所として候補に上がったのが、つくば市でした。改めて調べると、都会的でありながら自然も豊かであること、人口が増え続け、街が成長していて勢いがあることなど、地縁はありませんでしたが、福岡からの移住先はつくば市に決めます。

移住する少し前から、鷲尾さんは自分で焙煎したコーヒー豆のオンライン販売を開始しました。最初はなかなか売れませんでしたが、Instagramで発信を続けるうちに、少しずつ注文が入り始めます。お客さんから寄せられる温かいメッセージが大きな励みとなり、鷲尾さんは次第に「目の前のお客様に直接届けたい」という、実店舗への想いを強くしていきます。

浅煎りの豆の写真

つくば市に引っ越し、店舗物件の相場などを調べるために不動産屋を訪ねると「つくばは商業の街ではないから、お店やりたい人は多いけど場所が少なく、キッチンカーで経験を積んだり、隣の市で開業を目指す人も少なくない」「特につくば市は地価が高いし、上がり続けてるから、いい場所は早い者勝ち。取り合いだよ」といった話を聞き、出店が予想以上にハードルが高いことに驚きます。

その時、鷲尾さんは、つくば市が周辺市街地の活性化を兼ねて、個人の起業を支援する制度「つくば市周辺市街地チャレンジショップ」の募集を見つけます。鷲尾さんは「これだ!」と思ってつくば市役所に話を聞きに行き、準備を進めることにしました。

つくばには、福岡で勤めていたアウトドア関連の会社の支店が偶々つくばにあり、鷲尾さんは異動を希望して引っ越していました。仕事をしながら休みの日だけチャレンジショップに出店するか、あるいは一度退職し、専念して取り組むべきか悩みます。そこで奥様が「やるなら振り切ってやった方がいいよ、生活はなんとかなるでしょ」と背中を押します。その言葉で鷲尾さんの心は決まりました。

チャレンジショップの前で記念撮影

チャレンジショップ「吉沼まちかどテラス」の前で【提供写真】

チャレンジショップでの挑戦と葛藤

市へのプレゼンテーションと審査を経て、2024年11月1日、「WASHI no COFFEE」が、つくば市吉沼にあるチャレンジショップ「吉沼まちかどテラス」でオープンします。

「羽休めできる場所をつくりたい」というコンセプトのもと、「自家焙煎スペシャルティコーヒー」、特に「浅煎り豆のコーヒーの良さ」を伝えることを掲げました。「浅煎り豆」に着目した理由は、浅煎り豆をバリエーション豊かに揃えている店が、つくば市内では少ないと鷲尾さんが感じていたからでした。

そこで、吉沼のチャレンジショップでは、「いろんな浅煎りコーヒーが飲めること」そして「焙煎体験やドリップ体験」といったワークショップを企画し、どのような反応があるかを見ていくことにします。

吉沼のチャレンジショップには、鷲尾さんの他に2店舗、牛久市内に店舗があるベーグル専門店、イベントへの出店経験が豊富な移動型の本屋さんが出店し、出店日には知人やリピーターが訪れていました。一方で鷲尾さんは、コーヒー屋としては無名で、地元に知り合いもいないため、天候が悪かったり、チャレンジショップへの出店が鷲尾さん1人だけの日は、一日の売上がコーヒー1杯のみということが何度かあり「心が折れかけた」と言います。

コーヒーを手渡す写真

吉沼のチャレンジショップでは1日の売上が一杯だけの日も【提供写真】

「チャレンジショップは欲を言えば、もう少し街中の方が良かったかなとは思いますが、あの場所を含めて「チャレンジ」だったのかなとも思うので、個人的にはあそこで良かったと考えています。ベーグル屋さんは、牛久でとても人気のあるお店だったので、遠くて行けないと思っていた見込み顧客がたくさんいらっしゃり、オープン当初からお客さんが押し寄せている印象でした。

その中に、完全に素人のような位置付けで私がいたわけです。やはり、何店舗か一緒に出店することには、すごく意味がありそうですね。単独で出店する場合と、売上を立てるためだけに出店する場合とも、また違う意味があった」と振り返ります。

 また、「チャレンジショップは自分がこれからやりたい商売や事業と、きちんと向き合える方でないと難しいと思います。逆に言えば、私自身も、24歳の時にコーヒー屋をやろうと思ってはいましたが、それを誰に届けたいのかというところまで、確実に定められていたかというと、まだ少しふわっとした部分があったという意識はあります」とチャレンジショップへの出店によって、苦しさや厳しさと向き合う場面があったことを鷲尾さんは語ります。

チャレンジショップで得たもの

その中で得たものについて、鷲尾さんは「チャレンジショップは週5日でやっていましたが、吉沼で経験した半年間があったからこそ、そこに磨きがかかったという思いがあります。考えがブレなくなりました。自分がやりたいことに向き合うことができるか・できないかは、運命の分かれ道ではないかと思います。コーヒー豆を売るにしても、パッケージ一つ作るのも、コスト計算も、デザインも、個人で起業する場合は全て自分の責任です。やりたいことだけではない部分とも、ちゃんと向き合えるかどうか。それができれば、きっと楽しくなっていくと思います」と語ります。

お店の考え方が書かれたボード

さらに、「メインに据えたかったフルーティーで華やかなコーヒーが、このつくば市の市場で受け入れられるのかどうか、やはり心配でした。市内のコーヒー屋さんで浅煎り豆は扱っていてもフルーティー路線だけでやっているところはあまりなく、売れ筋は深煎りというお店がほとんど。その中でどうすればいいか、アイデアを試せる場としてとても良かった」とチャレンジショップに入居している間だからできたことをメリットとして掲げています。

アイスコーヒーの写真

また、吉沼という場所で、近隣の人はとても良くしてくださったそうですが、地区の外の色々なところからどれだけ集客できそうかを見極めたいと、鷲尾さんは考えていました。「SNSでしっかり投稿すれば、ちゃんと届いて、隣の土浦市やちょっと離れた千葉からも実際に吉沼まで来てくれる方が結構いたんですね。それを見て、これならやっていけるかなという手応えは一つありました」

コーヒーカップの写真

「オンラインで豆を販売していて、やはり実店舗がないとお客様も安心感が得られないのではとも思っていました。その底上げのためにもお店が欲しかったのですが、いざやるとなると、通販の売上がなければコスト的に支えられないという不安がありました。その両方を、コストをかけずにハードル低く始められた点で、チャレンジショップは私の理にかなっていました。

場所がどうこうというよりも、その安心感が欲しかったのです」とみどりの地区に店舗を立ち上げるにあたって、チャレンジショップが果たした役目や意義を教えてくれました。

この店だから行こうと思える「何か」を追求し続ける

WASHI no COFFEE のコンセプトにある「羽休め」という概念について伺うと、「日常の疲れをキャンプでリフレッシュできた!と感じた時の感覚に基づいています。例えば、山へ行き、川のせせらぎや鳥のさえずりが聞こえる中、朝日を浴びてテントから出る瞬間。肌寒いけれど空気は澄んでいて、周りには誰もいない。そんな心地よいシーンが思い浮かび、そう感じられるようなコーヒーを作ろうというのが最初の発想でした。その思いを突き詰めた時、「羽休め」という言葉がしっくりきました。

私の店のロゴである鷲(ワシ)にもかかっていますし、キャンプのように、また日常に戻っていくための一休み、という意味合いが良いなと。『羽休めブレンド』の名称は山での経験がコンセプトになっています」と語ります。

羽休めブレンドの写真

最後に鷲尾さんは、「初めての方は、まずこちらのブレンドを気軽に頼んでいただければと思っています。そして、「ここのコーヒー美味しいかも」、「この雰囲気落ち着くかも」と感じていただけたら、今度はより楽しいコーヒーの世界、つまり様々な豆の個性へと繋がっていくのが理想です。

そこを伝える焙煎が、私にとっては「浅煎り」なのです。人生の転機になったのも浅煎りのコーヒーでしたから、そこはブレずにやっていきたいと思っています。

カウンターでコーヒーをいれている写真

また、お客様と同じ目線のカウンターで、目の前でドリップするというスタイルにもこだわっています。

コーヒーの淹れ方に興味を持った方、コーヒーをお待ちいただいている間など、ぜひご遠慮なく観ていただけたらと思います」と語りました。

 

コーヒーのことが良くわからない、全然詳しくないという方も、ぜひお気軽に「羽休め」をされてはいかがでしょうか!

プリンにアイスがのった写真

鷲尾さんが手作りするコーヒーに合うプリンや焼き菓子もすでに大人気

豆二袋でサービスのコーヒーの写真

豆を200g買うと1杯のコーヒーをサービスしている

テイクアウトのコーヒー

テイクアウト販売も行っています(プリンなど一部メニューは店舗内のみ)

店内の写真
窓際の席

WASHI no COFFEE(ワシノコーヒー)

つくば市みどりの東30-4

営業時間 10:00-17:00(金曜のみ13:00 open)

定休日:月曜日・火曜日

(営業の状況などはお店のインスタグラムを参照ください)

◎敷地内に駐車場4台分あります。

この記事に関するお問い合わせ先

市長公室 広報戦略課
〒305-8555 つくば市研究学園一丁目1番地1
電話:029-883-1111(代表) ファクス:029-868-7628

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