背景まで見える、つくばのマーケット

更新日:2024年03月21日

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Case11. 川村 葉月(かわむら はづき)さん|つくいち

つくば駅の正面に位置するつくば市中央公園では、毎月第2日曜日の9時から13時まで「つくいち」が開催されています。日々開発が進み、移ろいゆくつくばの中心にありながら、エンジン音はなく、人々が穏やかに会話を交わす声が聞こえる空間は、どこか牧歌的で時の流れが緩やかにさえ感じます。2008年7月に初めて開催されてから15年。その片鱗を見続けてきた人物のひとり、もっくん珈琲の川村葉月さんにお話を伺いました。

川村葉月さん

背景まで見えるつくばのマーケット

初めて開催された当初は11店舗ほどの市だったそうです。現在は、入れ替わりも経て、約20店舗ほどで活動しています。都合により毎回の出店数は変わりますが、野菜類や畜産品、パンなどの加工品、飲食店、雑貨類など、毎回10数店のテントが並ぶそうです。

その出店者全員が共有するのは「背景までおいしいつくばのマーケット」というコンセプト。作り手と売り手の顔が見えて、作っている過程や材料がきちんと見えること。余計なものを使っておらず、きちんと丁寧に作られているのがわかること。作り手と対面で関わることができるからこそ、生み出された背景を含めて商品を手に取ることができます。

出店の様子

「つくいち」が始まった2008年頃は「スローフード」への興味が高まっていた時期で、作り手も買い手も今より自然派の色が強かったようです。しかし、現在ではいい意味で緩くなってきたそう。コンセプトは守りながらも、いろいろな人を受け入れるアットホームな雰囲気になりました。

「一番の趣旨としては市民とのコミュニケーションの窓口というか、消費者と生産者をあんまり分けたくないという思いがあるんです。お店でもてなすっていうんじゃなくて、消費者と生産者がフラットな立場で、会話をしながら同じ時間を重ねていくっていうか。だから良いものを売っていればなんでもいいんじゃなくて、あなただから買いたいって、そういう場にしたいんです」
そう川村さんは話します。

出店の様子

出店の決まり

「つくいち」は出店者全員が主体になって運営されています。新しく出店希望をする人にも審査が設けられており、まずは市に足を運び、出店者と直接コミュニケーションをとります。そこで「つくいち」のコンセプトや雰囲気に賛同する方には出店シートを記入してもらいます。その後出店者のミーティングにおいて、コンセプトだけでなく、地場産であること、手仕事であること、環境に配慮があること、などいくつかの条件をクリアできた場合、全会一致で参加できるかが決まるそうです。

少々厳しく感じるようなシステムですが、出店者それぞれが、コンセプトを守りより良い場所になるように考えて現在まで続けられてきました。

出店の様子

みんなが安心して過ごせる空間

出店方法はシンプル。広場の真ん中に「つくいち」の看板が一つ置かれて、あとは思い思いの場所にテントを張るだけです。飲食店はありますが、キッチンカーはありません。また、イベント特有のドドドッという発電機の音が聞こえません。
「発電機はうちも使うときは使いますけど、ここはそういう場所じゃないので。全員ここは使わない場所だって、明文化されていないけど、そういうつもりで来てるんです」

必要最低限の設備だけが置かれた広場は遠くまで見渡せ、子どもたちが走り回っていても安心。市の中心にござを敷いて、思い思いの時間を過ごしている家族も見られます。

会場の様子

人と町の変化に寄り添う

景色の変化も人の入れ替わりも早いつくば市。しかし、初めての開催から15年以上「つくいち」に通う人も少なくありません。

開催初期の頃から家族連れで来られて赤ちゃんだった子どもも、15年たった現在はすっかり大人の姿に。その成長を見られるのも長年続けていて嬉しいことの一つです。

「長年通ってくれている人はお祭りに来ているっていうよりは、今日は『つくいち』やってるから行こうかって。生活の一部みたいに、自然なテンションで来てくれています」
年配の方から子どもまで、心地よく集う、15年間変わらず続いている「つくいち」は人々の日常に溶け込んで存在しているようです。

また、人の成長だけではなく、つくば駅周辺の変化も見守ってきました。「つくいち」よりも周りの環境のほうがすごい速さで変わっています。15年前と比べて多くのマンションが立ち並び、現在も新たな商業施設が建設中です。

「個人的にはベットタウンっぽくなってきたなと思って、それがさみしい気持ちもあります。周りの環境が変わっても、この牧歌的な雰囲気はずっと続けていきたいと思っています」
以前よりも大きくなった公園の淵に並ぶ桜を見つめ、川村さんは話しました。

会場の様子

15年目にみえてきた壁

つくばの中心地で市を続けていく中で、現在目の当たりにしている課題があるそうです。
ひとつは近年のマルシェブーム。
15年前には珍しかった作り手直売のマルシェも、今では週末のたびにどこかで開催されるようになり、足を運んでくれる人が散ってしまったのだとか。

「ほかのマルシェと比べたときに、違いがパッと分からない」たくさんのマルシェがある中で、「つくいち」に行く理由を作ること。つまり、差別化が重要だと川村さんは言います。


また転出転入が多いつくばでは、長年続けていても「つくいち」を知らない人は一定数いて、新しく入ってきた人にどのように知ってもらうか、頭を悩ませています。

もともと広告費はゼロで、告知のポスターも出店者の店舗に貼るくらいでした。経費的な側面もありますが、何よりたくさんのポスターや広告を作って消費するという行動が、コンセプトとあっていないからです。

しかし、宣伝はしないとその存在すらも知られなくなってしまう。その危機感から、もともと告知を行っていたFacebookに加えて、2年前にInstagramを始め、最近では市の雰囲気を知ってもらうために紹介の動画を作りました。
「もともとIT弱めの団体だった」という川村さん。
始めはSNSを利用することに消極的だった出店者たちも、現在では全員でSNS管理を行うようになりました。

出店の様子

これから挑戦したいことは

「あんまり考えてないけど続けるってことかな。15年続いてきたのも、すごい高い目標があってとかじゃなくて、ざっくりやってきたのがいいと思うから。生活の一部というか、サイクル。それが一番いいかと思います」

「つくいち」の目指す方向について、出店者でときどき集まって話をするそうです。
「大体みんな同じ方向を向いていると思っていて、顔が見えるってことを大切に、この雰囲気を保っていきたい」

「つくいち」では商売商売した雰囲気の出店者はいません。
それは一回きりの関わりではなく、今後長く続く関係を築くため。心地いい、「つくいち」の雰囲気が好きと言う人たちが、長く来続けられるようにしたい、そして足を運んでくれた人にもそれが伝わってほしい。その思いとコンセプトを続けていくことが、何よりの挑戦です。

出店の様子

お祭りの日

普段は日常の一部のように穏やかな「つくいち」ですが、4月と11月だけはにぎやかな「まつりつくいち」となります。
そのときには普段の出店者のほかに、出店者と関係のある店舗に声をかけ、40店舗ほどの大所帯で開催されます。
「つくいち」のコンセプトからは外れないようにという配慮はありますが、ステージも設置されて、いつもとは違ったお祭りのような雰囲気になります。
その際に出店したお店がレギュラーとして仲間に加わったり、宣伝も力を入れて行うので、「つくいち」に新しい風を入れる良い機会になっています。

もっくん珈琲

これから出会う人たちへ

これまで出会った人たちとの関わりを大切にする一方で、新しく興味を持ってくれた人たちにもどんどん足を運んでほしいと、川村さんは言います。

「普通に遊びに来てというか、自然に遊びに来てほしいです。来れば、いいお店、幸せなものがいっぱいあるから。出来たらお店にも行ってくれると嬉しいかな。ここで知って、お店に来てほしい。そこでまた仲良くなって、お店も生活の一部になってくれたら。ここは出会いの場かな、長く続く関係のきっかけの場になったら、と思います」

つくばの中心で開かれる、人の温かさに触れられる「つくいち」。変化が目まぐるしいまち、時代だからこそ、背景までみえるモノや人の大切さに目を向けてみてはいかがでしょうか。これからも同じ場所、同じコンセプトで、皆さんを迎えてくれることでしょう。

「つくいち」に来て、話して、手に取って。

つくいち看板

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