ツインピークスマウンテンブルーイング Twin Peaks Mountain Brewing
つくば観光大使が聴く!つくばのおさけをつくる「人」
ツインピークスマウンテンブルーイング Twin Peaks Mountain Brewing(クラフトビール)

【左から】BEUCKMANN Carsten(ボイクマン・カーステン)さん(Twin Peaks Mountain Brewing 代表)、井上魅空さん(第15・16代つくば観光大使)
つくばエクスプレスつくば駅の半径700m圏内のまちなかで、ドイツ各地のビールを軸に様々なスタイルのクラフトビールを醸すブルワリーがあります。54歳の時に研究者からビール醸造家に転身してブルワリーを立ち上げたボイクマン・カーステンさんに、お話を伺いました。
プロフィール

BEUCKMANN Carsten(ボイクマン・カーステン)さん
Twin Peaks Mountain Brewing 代表
ドイツ出身。生物化学博士。大阪、アメリカでの研究生活を経て、日系大手製薬会社への就職を機に2002年につくばへ移住。2022年、つくば市東新井にTwin Peaks Mountain Brewingを開業。醸造所に隣接するビアレストランでは、母国ドイツスタイルのビールや独創的なクラフトビールを、自家製ソーセージなどビールに合うフードとともに提供している。
「第2の故郷」のつくばでドイツスタイルのビール造りへ
【井上大使】
ボイクマンさんがつくばに来られた経緯についてお聞かせください。
【ボイクマンさん】
私はドイツで生物化学の博士号を取得した後、1994年に初めて日本を訪れ、睡眠に関する研究のため大阪の研究所で6年間を過ごしました。その後、アメリカのダラス大学での研究活動を経て、つくばに研究所を持つ日本の製薬会社に入社したことを機に、2002年につくばへ移住しました。
【井上大使】
日本語がとてもお上手ですね。
【ボイクマンさん】
いえいえ、つくばに住み始めた頃はかなり苦労しました。研究開発だけでなく、管理職として人事評価を日本語で実施する必要があり、大きなプレッシャーを感じながら日本語を覚えました。私たちのチームは睡眠障害の研究開発で大きな成果を出すことができました。
【井上大使】
そのような輝かしいキャリアから、会社を辞めてビール造りを志したのはなぜでしょうか。
【ボイクマンさん】
ドイツでは法律で飲酒が16歳から認められているのですが、学生時代には友人とともにビールを飲み歩いたり、地域の祭りでビールをサーブする仕事を手伝ったりしていました。
2000年代初頭にアメリカで暮らしていた時、実はアメリカのビールにおいしさを感じることがほとんどありませんでした。日本に移住した後、2010年頃に出張で久しぶりに訪れたアメリカは、クラフトビール革命が始まっていて、その時にIPA(インディア・ペールエール)など新しいスタイルのクラフトビールを知って大好きになりました。それからは出張のたびにおいしいクラフトビールを探し求め、日本国内でも様々なクラフトビールが生産されるようになり、楽しんでいました。
創薬のプロジェクトが成功する可能性というのは実はとても稀です。研究開発の仕事をとても気に入っていましたが、残された時間でこれからの新しい創薬のプロジェクトを立ち上げたり完成させることは難しいだろう、と年齢とともに考えるようになりました。
そして、「自分の人生、もうちょっと挑戦したい」という想いはどんどん高まっていきました。54歳の時、長年関心を寄せていたクラフトビールを仕事にしようと決意して退職し、ブルワリーを設立しました。
日本人の妻と結婚し、自宅を構えていたことに加え、人口の増加率が高く将来性のある街だと感じていたため、迷いなく拠点はつくばにしました。

つくば観光大使の井上魅空さん(第15・16代)
【井上大使】
なるほど、ご自身のビールに対する愛情や人生でまだやりたいことがあるというチャレンジ精神、そして現在のつくばの環境など、色々な力がボイクマンさんを動かしたのですね。とても個性的な外観のブルワリーですが、拠点を構えるまでのエピソードを教えてください。
【ボイクマンさん】
ビアレストランのコンセプトで物件を探していたところ、元はメガネ屋さんだった現在の場所に出会いました。黒・赤・黄色に外観をペイントし、テラス席も設けています。
醸造所の製造免許手続きが予定よりも遅れ、2022年3月にドイツ料理のビアレストランを、他の生産者さんのゲストビールを提供する形でオープンしていましたが、2023年1月にようやく取得できました。2023年3月にオープン1周年記念として、4種類の自家醸造のビールを提供したのですが、その準備を2か月間という短期間で仕上げた時は本当にハードでした。
当時はアシスタントもおらず、まだ機械の操作にも慣れていない頃です。特に、麦芽を発酵させ麦汁にする仕込みは、早朝から真夜中まで作業した記憶があります。すべての工程を1人でこなした時の苦労は今もよく覚えています。限られた時間の中で試行錯誤する余裕も無く、異なるレシピのビールを一発で無事に完成させ、お客さまに初めて飲んでいただいた時は、本当に嬉しかったですね。

【井上大使】
オープニングにはそのような苦労があったのですね。ボイクマンさんがおいしいビールを造るために、大切にされていることは何でしょうか。
【ボイクマン】
私は、自分の手で造り、子どものように育てたビールをお客様が飲む瞬間に立ち会うことを、本当に幸せだと感じています。ビールを一口飲んだ時、目を丸くし、顔がほころんだ美味しそうな笑顔。その笑顔を見るために、日々頑張っているようなものです。日本語ではうまく言えないのですが、私の仕事というのは I mean, making people happy business.と思っています。
ビール造りで大切にしているのは「再現性と改善」です。クラフトビールは、同じ原材料を使用しても、わずかな条件の違いで味が変わる難しさがあります。ですが、お客様の「またあのビールが飲みたい」というニーズに対し、私たちはその期待に応えるビールを提供することが求められていると考えています。
その「再現性」のために重要なことが「改善」です。例えば、当店の定番であるドイツビールの一種「ピルスナー」の生産では、仕込みごとに出来たビールをしっかり分析します。ビールには材料や配合のレシピがそれぞれあるのですが、味わいや泡立ちなど理想とする味や品質に対してレシピの中で変動しやすい要因があります。これらをどのようにコントロールするかなど、科学的にアプローチかつ伝統に忠実なスタイルにこだわって生産しています。
【井上大使】
研究現場の第一線でご活躍されていたご経験が、ボイクマンさんのビール造りにとても生かされているんですね。ドイツビールの伝統的なスタイルの指針である「ビール純粋令」について教えていただけますか。
【ボイクマンさん】
「ビールは、麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」という内容で、1516年にバイエルン公ヴィルヘルム4世により制定されました。純度、品質そして伝統を重んじ、現在もドイツ国内の多くの醸造所が頑なに守っているものです。
私たちもこの「ビール純粋令」に基づいたビールのラインナップとして「ツイン・ピークス・トラディション」シリーズを醸造しています。一方で、「ビール純粋令」にとらわれない新しいドイツスタイルのビールにも挑戦しています。その際は、フルーツなどの天然素材を使用し、化学的な添加物は一切加えないなど、こだわりを持っています。
先にお伝えしたように、IPAやスタウト(黒ビール)といったドイツビール以外のスタイルのクラフトビールも定番として醸造していますので、お客様には幅広い種類のビールを楽しんでいただけるように心がけています。
誰もが楽しめるオープンなレストラン

【井上大使】
こちらのビアレストランは、気軽に入れるカフェのような温かい雰囲気が素敵ですね。様々なお客さまに配慮したお店づくりをされていることが伝わってきます。
【ボイクマンさん】
誰もがクラフトビールを楽しめるオープンなスペースをコンセプトにしています。女性同士でレストランを利用してくださる場面も多いですね。当店では、アルコールが苦手な方のためにドイツ産のノンアルコールビールを輸入して提供したり、低アルコールのドイツビールも造っています。また、車社会ですからドライバーの方やお子様が楽しめるように、ジュースや紅茶、コーヒー、クラフトコーラ、クラフトジンジャエールなどソフトドリンクも充実させています。
お店で大切にしていることの1つに「アクセシビリティ」があります。車椅子の方もご利用できるバリアフリートイレも整備していますが、バリアフリーの観点をもっと広く持つようにしています。例えば、ペットと一緒にご来店の際は、外のテラス席でお楽しみいただけるようワンちゃん用の水飲みボウルも用意しています。また、ベビーカーでも入店できるように、入口を広く設け、テーブルへの横付けもできるほか、日本語が分からないお客さまも多いので、多言語のメニューも用意しています。
【井上大使】
ネコのキャラクターマスコット「スーちゃん」がとてもキュートですよね。
【ボイクマンさん】
自宅で飼っているネコがモチーフなんです。ビールを手に持ち、筑波山を抱えている可愛らしいイラストです。友人のイラストレーターにお願いをして描いてもらいました。
ビアグラスやコースターにも「スーちゃん」のイラストを使用しています。店内で販売しているTシャツやカップなどの「スーちゃん」グッズを飲んだ後にお土産で買っていかれたり、わざわざ遠くからご来店される方もいらっしゃいます。

【井上大使】
ビールを造るところからお店で楽しんでいただくところまで、随所にアイデアと細やかな配慮を感じられることが、また訪れたくなる魅力なんでしょうね。それにしてもボイクマンさんは、お一人で全てのことを考えたり、取り組んだりしているのでしょうか。
【ボイクマンさん】
立ち上げの時はあらゆることをやりましたが現在、メインに担当していることは醸造と会社運営です。ビール造りは学んでいたものの、レストランマネジメントやキッチンマネジメントは特にノウハウもないままオープンしましたので、ビアレストランの立ち上げはビール造りとはまた別の苦労がありました。苦しい時期もありましたが、お客さまやスタッフの支えもあり、何とか乗り越えることができました。
料理に関してはシェフを雇用し、キッチンの責任者として任せています。とはいえ、シェフに伝えている唯一の条件は、「ビールに合う料理を作ること」です。ドイツのビアレストランの看板を掲げていますが、ドイツ料理にこだわらず、パスタなども提供し、ビールが進む新たなメニューの考案にも取り組んでいます。例えば「牛肉はらみロースト」は、人気メニューの一つです。
おいしいビールを造ることは当然ですが、料理とサービスも良いものをともに提供したいと考えています。お客さまが扉を開けてご来店されてから、お帰りなるまでの間、この場所で素晴らしい体験をしていただきたい、と常々思っています。
私は当店のシェフやスタッフを心から誇りに思っています。お客さまに対する「アクセシビリティ」だけではなく、会社でのチーム内の「アクセシビリティ」も大切にしています。性差別はもってのほかですし、多様性を尊重し、それぞれの得意分野を生かして働ける環境をつくることで、お客さまに最高のおもてなしを提供できると考えています。
お蔭様でビアレストランには多くのお客さまにご利用いただいていますが、スタッフの人手が足りない時がたまにあり、何とかしたいと思っています。

【井上大使】
急に忙しくなることもある飲食店のスタッフマネジメントは大変ですね。レストランスタッフのほか、ビール造りに興味を持ち、醸造に携わりたいという方もいらっしゃいますか。
【ボイクマンさん】
はい、そうですね。以前、醸造アシスタントを募集したところ、予想以上に多くの方が関心を寄せてくださり、たくさんのお問い合わせをいただきました。ただ、実際に醸造所での仕事内容を詳しくご説明すると、「想像していたものと違った」と、応募を辞退される方も少なくありませんでした。
よくSNSなどで様々な醸造所の様子をご覧になる機会があると思います。醸造家が片手にビールを持ち、楽しそうにタンクの前でピースをしている写真とか。ですが、それは切り取られたほんの一部のシーンです(笑)。
醸造の仕事は、片付けと洗浄。その後、洗浄。そして、また洗浄…という感じで地道な作業が多い仕事です。時には危険を伴う作業もあります。
例えば、この醸造所にある1基800リットルのタンクは、準備、仕込み、片付けと掃除といった一連の工程に大体3日ほどかかります。一見、華やかに見えますが、衛生管理の仕事という特徴がありますね。
【井上大使】
なるほど、ビールを造りたいという人はたくさんいても、実際の仕事を知ると考え直す人も多いのですね。「ツインピークスビアクラブ」という集まりが近日再開されるようですが、どのような会なのでしょうか。
【ボイクマンさん】
クラフトビールに興味のある方が集まり、ビールについて学ぶことができるイベントです。毎月1回、月曜日の夜に開催し、クラフトビールの歴史や文化から、種類や醸造工程などについて、私がプレゼンテーションを行います。
また、様々なスタイルのビールをテイスティングしていただきながら、気軽に質問や交流ができる場となっています。醸造家と直接ゆっくり話をしながら、ビールを飲める機会はあまり無いと思います。これまで、つくば市内だけでなく県外からも多くご参加いただき、参加者の年齢層も30代から50代までと幅広く、楽しみながらクラフトビールの理解を深めてもらっています。
ここ最近は、私のスキルアップのために月曜日夜を別のセミナーに充てており、このビアクラブは一時休止していましたが、2025年春から再開を予定しています。クラフトビールの基礎を学んでみたい方には、ぜひ参加していただきたいですね。

つくば市内でのコラボレーション商品も誕生
【井上大使】
つくば市内の他の醸造所や生産者との交流の機会はあるのでしょうか。
【ボイクマンさん】
つくば市内では、私たちよりも先に「つくばブルワリー」さんがクラフトビールの醸造所をオープンされていました。
「つくばブルワリー」の経営と醸造を行っている代表の延時さんに直接お会いして、「自分の故郷であるドイツのビールをメインにビールの醸造所を立ち上げたい」という相談や、「多様なスタイルのクラフトビールを、つくばでもっと幅広く楽しんでいただけるようになって欲しい」といった私の考えをお話しました。外国人である私が日本で醸造を始めることに驚かれていましたが、とても前向きかつオープンに話を聞いてくださいました。その後もブルワリー立ち上げの準備で何度も親身に相談に乗ってくださり、本当にお世話になりました。
2023年には延時さんのアイデアのもと、「つくばブルワリー」との初のコラボビール「つくばスチーム」を造りました。スチームビールというのは、通常は低温で活動する「ラガー酵母」を高温で発酵させたビールです。発酵後に樽から炭酸が蒸気のように吹き出すことからその名が付いています。お客さまにも大変好評で、継続的に選ばれている一杯です。
また、麦芽で作った麦汁をワイン酵母で発酵させたり、麦汁とブドウ果汁を組み合わせた新しいドリンクなどをつくば市内のワイナリーさんとのコラボレーションで造れないかと考えているところです。

【井上大使】
「つくばスチーム」も飲んでみたいですし、ワイナリーさんとのコラボも楽しみです。ボイクマンさん自身のチャレンジはいかがですか。
【ボイクマンさん】
ビール酵母の培養体制を確立したいですね。ビールを麦汁から生み出す働きをするのは酵母で、使用する酵母によって出来上がるビールが変化します。酵母はたくさんありますが、予算の都合で購入できる酵母は限られています。
私は、研究者時代に脳神経の培養に関わっていましたので、培養は得意分野ですが、かなりの設備投資が必要であることも知っています。でも、いつしか醸造所内に小さなラボを設けることを夢の一つとして持っています。
また、イベントへの出店や県外での販売をもっと積極的に進めていきたいです。さらに、ビールのコンペティションに参加し評価を重ねることで、私たちのビールの認知度を高めていきたいです。
これまで、ここで醸造したドイツのドルトムントスタイルのラガービール「博士のエクスポート」が日本地ビール協会が主催するインターナショナル・ビアカップ2023で金賞をいただきました。2024年には、ドイツ・ケルンの伝統的なビール「ケルシュ」をここで醸造した「博士のケルシュ」が銀賞を受賞。さらに2025年には、日本国内で醸造されたビールの品評会ジャパン・グレートビア・アワーズ2025において、5種類のビールが受賞しました。今後も様々なコンペティションで高い評価を得られるようなビールを生み出していきたいと思います。

【井上大使】
3年連続で、しかも金賞・銀賞と受賞されているとはすごいですね。
【ボイクマンさん】
造ったビールが評価されるのはとても嬉しいことです。そしてさらに嬉しいのは、私たちが造ったビールを一口飲んだ時のお客さまの顔です。
「おいしいビールは幸せ!Tasty Beer is Happiness」が、私の揺るぎないモットーです。これからも現状に満足すること無く、お客さまが喜ぶおいしいビールを造り続けます。
商品紹介

醸造したビールのボトルも販売されています。
「博士のピルスナー」
ラガーでミディアムライトなボディとエレガントなアロマが特徴。
「博士のヴァイツェン」
大麦麦芽に加え、小麦麦芽を使用して醸造。バナナの爽やかでフルーティーな風味と甘い麦芽の風味がある。
「博士のケルシュ」
ケルンの伝統的なビール。風味はフルーツにも、パンにも感じる部分があり、ドイツホップのエール的な高貴な香りを楽しめる。
「博士のIPA」
苦味とモルト感が強く感じるビール。IPAなどドイツスタイルでは無いビールも製造している。
詳細はツインピークスマウンテンブルーイングさんのホームページをご確認ください。
取材・文:井上魅空(第15・16代つくば観光大使)
編集:つくば市広報戦略課
写真撮影:鈴木茂樹(白と水と糸)
企画協力:つくばのおさけ推進協議会(つくば観光コンベンション協会内)
関連リンク
【ツインピークスマウンテンブルーイング公式ホームページ】
この記事に関するお問い合わせ先
市長公室 広報戦略課
〒305-8555 つくば市研究学園一丁目1番地1
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