つくばワイナリー Tsukuba Winery
つくば観光大使が聴く!つくばのおさけをつくる「人」
つくばワイナリー Tsukuba Winery(ワイン)

【右】大塚勝さん(つくばワイナリー)、【左】大浦颯人さん(つくばワイナリー)、【中央】井上魅空さん(第15・16代つくば観光大使)、
筑波山と宝篋山、間に連なる稜線が目前に広がる、つくば市北条字古城の丘陵地に、市内で初めてつくば産ワインを誕生させたつくばワイナリーがあります。
ワイナリーのマネジメントからぶどう栽培の農作業まで幅広く担当する大塚さん、地元つくばで生まれ牛久育ち、若くして栽培と醸造の責任者を務める大浦さんにお話を伺いました。
プロフィール

大塚 勝(おおつか まさる)さん
つくばワイナリー ワイナリー長
大浦 颯人(おおうら そうと)さん
つくばワイナリー 栽培・醸造責任者
つくばワイナリーは、2012年からつくば市内でワイン用ぶどう栽培を開始。2014年に委託醸造で初めてのワインをリリース後、2019年に「つくばワイン・フルーツ酒特区」の第一号案件としてつくば市初のワインの自家醸造所をオープン。
気候変動に対応したワイン造り
【井上大使】
お2人の役割について、まず伺いたいと思います。大塚さんは、ワイナリーでどのような業務に従事しているのでしょうか。
【大塚さん】
私は長年、他業界で働いていましたが、最後の仕事としてワイン造りを選びました。基本的には販売や卸作業、渉外対応、さらには栽培や醸造まで必要なことは何でもやっている形です。
とはいえ、ワイン造りは50代後半になってから携わるようになったため、毎日が勉強の連続です。ぶどう栽培と醸造に関しては、学校で学んできた大浦を責任者として任せており、社員やパートさん、サポーターの皆さん達と協力しながらワイナリー長としてワイナリーを運営しています。

大塚勝さん
【井上大使】
大浦さんは、新卒でつくばワイナリーに入社し、3年目でぶどうの栽培とワイン醸造の責任者になられたということですが、その経緯についてお聞かせください。
【大浦さん】
私の地元はつくば市で、将来はお酒造りに関わる仕事がしたいと考えていました。高校を出て、醸造学科がある都内の専門学校に通い、発酵食品や様々な種類のお酒の醸造について学びました。同じ品種、同じ酵母を使っても、違う人が作れば同じワインはできないということや、温度管理や発酵停止のタイミングで仕上がりが全く変わってくることなどワイン造りに面白みを感じ、ワインの道に進みました。
地元でワイン造りに携われたらと考えていた矢先、友人の母がつくばワイナリーの存在を教えて下さって知りました。募集はされていなかったのですが、学校経由でつくばワイナリーでのインターンシップの受け入れをお願いしました。インターンシップ中は、ちょうどサポーターさん達がお手伝いに来ていた時期で、私は就職のライバルが15人近くいるのか…と。実は勘違いだったのですが、そう思いながら収穫していました(笑)。実際はインターン生も入社したのも私1人でした。

大浦 颯人さん
【井上大使】
入社してからこれまで、印象的なエピソードや大変だったことはありますか。
【大浦さん】
大変かつ感慨深いエピソードといえば、入社後すぐに、畑を広げることになり、ぶどうの苗を植えるための穴をほぼ1人で1000個掘ったことでしょうか。この土地は花崗岩地質で、とても硬く、両手で持つダブルスコップを使って手作業で直径・深さともに40cm程度の穴をひたすら掘り続けました。春先で涼しかったのに、午前中から汗だくになりました。その苗も今では立派に実が成って先般、ワインにすることができました。
【大塚さん】
私の体力では、多分5個ぐらいで終わりますね(笑)。それだけ重労働な仕事です。
【井上大使】
筑波山麓の花崗岩土壌は本当に硬いことを身をもって体験されましたが、どういう点がワイン造りのメリットになるのでしょうか。
【大浦さん】
花崗岩土壌の良さは、ミネラルが含まれているのはもちろん、水捌けの良さです。海外の主要なワイン産地と日本の本州の気候の大きな違いは、ぶどう育成の最盛期に雨が多いことです。地面に水が溜まりやすいと根腐れや湿気がこもり病気が一気に広がりやすいんです。
また、この地では「つくばおろし」と呼ばれる筑波山から吹く風が過剰な水分を飛ばすとても良い役割を果たしてくれています。つくばの風と土は、ぶどう栽培に適している環境だと思います。
【大塚さん】
一方で、昨今の気候変動には私たちも苦労しています。気温が早く上昇すると、ぶどうの生育も早く進み、収穫時期をその分前倒しにしたり、その後の様々な作業工程も短期間に凝縮する必要が生じます。熱中症アラートが出るほどの暑さが続く中、野外で座りながら収穫する時の体感温度は40℃位です。朝から晩まで作業して、水分補給では足らず体力的にも堪えるので、もっと体を鍛えていればよかった…と思うほどです。
【大浦さん】
私が入社した時(2020年)は大体8月のお盆明けから10月中旬ぐらいまでの収穫でしたが、今年(2024年)は大体9月末までに収穫を終え、10月1週目にはもう全部仕込みが終わっていましたね。同じ位の作業量を1か月弱短縮するのは中々大変です。
気温だけではなく、雨の強さや降るタイミングの変動も影響が大きいです。ぶどうは5月頃になると芽が伸びていき、「花芽」ができ始めます。その後、花が咲いて結実して、ぶどうの実になるのですが、ある程度大きくなるまでは人間で言うと赤ちゃんのような状態です。一番弱い状態の時に雨が降りすぎるとダメージを受けやすい。近年の気候変動はワイン造りに直結するので、悩ましいところです。
さらに、台風が来る時期も早まっていますよね。今年の8月は収穫を予定していたその日に台風が直撃し、気象予報とにらめっこしながら作業計画を練り直しました。収穫の際には一気に採る必要があるので、こうした変化に対応していただいているサポーターさん達の手助けが本当にありがたかったです。

収穫を終え、次のシーズンに向けての準備が始まる前のぶどう畑。バックに筑波山がそびえています。
【井上大使】
普段は耳にすることがない栽培の現場での苦労をお伺いすると、ワインの一口一口が一層味わい深く感じます。ワインの商品種類も豊富ですが、色々な種類のぶどう品種を育てることの難しさはあるのでしょうか。
【大浦さん】
品種だけでなく同じ品種でも樹勢が異なるので、収穫時期を計画的にそろえていくことは難しいです。除葉などの作業タイミングを変えてあげたり、収穫時期が早い樹には熟し過ぎないよう手を加えてあげたり、ぶどうの様子をしっかり見ています。
また、ここの気候で良いぶどうができるかどうかを、育てる品種の判断基準にしています。
【井上大使】
具体的には、どのような品種が適していると感じていますか。
【大浦さん】
新しい圃場で増やしているもので、赤品種は「タナ」。白品種は「プティマンサン」と「アルバリーニョ」でしょうか。西洋品種の赤品種は色が乗らない場合があり、特に今年(2024年)は色乗りが悪いと他のワイナリーの間でも話題になりましたが、その中でも比較的「タナ」は色乗りが良かったですね。また、タンニン分をしっかり含んでいる品種なので 、他の西洋品種とブレンドをして、今までより幅のあるワインを造りたいと思っています。
白品種の「プティマンサン」と「アルバリーニョ」は、どちらも酸味が強いことが特徴です。しかし、つくばは10月頭ぐらいまで気温が高く、ぶどうの酸が本来より落ちはしますが、逆に酸を若干落とすぐらいでワインにしてみると良い仕上がりになることが分かっています。
他の品種で酸が元々少ない品種も育てており、気候変動で多少酸の量が変わった場合でも、それらとブレンドすることによってちょうど良いバランスを取り、味と品質の安定を図っています。特に「プティマンサン」は比較的、暑さに強く収量も安定的なので、今後増やしていく可能性はありますね。つくば市栗原にある「つくばヴィンヤード」さんでも、私たちよりずっと前から「プティマンサン」を栽培していますし、今後の気温上昇を考えると、全体的に暑さに強い品種が増えてくるのではないかなと思います。
【大塚さん】
うちで植えている「アルバリーニョ」、「マルスラン」は、フランスボルドー地区でAOC規定への導入が承認された品種にもなっています。こうした世界の産地も温暖化の影響を受けているというところもあるのでしょうね。

地域とともに活性化に取り組む
【井上大使】
大型バスでの旅行客をワイナリーで受け入れたり、訪れたお客さまとの交流や地域との関わりを積極的に行っているようですね。
【大塚さん】
つくば市は、筑波研究学園都市として国際会議などで海外からの訪問者も多く、団体で来られることもあります。つくばにこうしたワイナリーがあることや、ここのロケーションに驚かれ、その際は、ぶどう畑の案内を行ったりもします。
また、近所にある県立筑波高校さんとも交流があります。「つくばね学」という課外授業の一環で毎年生徒さんを月に何日かお預かりして、年間を通して栽培などの作業を体験していただいています。仕事の大変さや農業の大変さを噛みしめながら一生懸命に取り組んでおられます。ただ、実際は、ワインができても飲めないので、卒業した生徒さんには、「何年後かに友達を連れて飲みに来てね」と伝えています。
さらには、ワイナリー前の広場をマルシェやイベントの会場として提供することもあります。司書資格を持っている従業員もいるので、お子様達に読み聞かせをする青空図書館を開いたり、シャボン玉やスタンプ押しなど、お子様やペットも含め、家族みんなで遊べるような空間づくりを大切にしています。
【井上大使】
私も、12月に実施されていた「つくばアースワーク展」へ伺いました。ワインを楽しみながら、ぶどうのツルを使ったアート鑑賞やクラフトを体験でき、自然豊かな時間を過ごすことができました。憩いの場のような、子どもと過ごせるワイナリーは嬉しいです。

【井上大使】
市内でいち早くワイン造りを始めたワイナリーとして、今後取り組みたいことや、これからの展望をお聞かせください。
【大塚さん】
土地は約18haあり、ぶどう畑としては2.5haほどを使っています。今後の気候変動にも対応できるような暑さに強い品種の割合を高めることも考えていますが、一方でワインは栽培と収穫があり、年に1回しか仕込めない特性上、投下した資本を回収するまでにどうしても時間がかかります。売上や需要、長期的なビジョンを見据えながら、地元のぶどう農家さんとの連携も視野に入れているところです。
【大浦さん】
ワイン造りが盛んな山梨県などでは、ワイナリー同士の協力や情報交換が多岐に渡っています。つくばでも「つくばのおさけ推進協議会」が発足しましたので、これをきっかけに、土地柄に合った品種や栽培方法、ワイン醸造に関しては酵母など生産に関する情報を地域のワイナリー同士で共有していければ、 より良いワイン造りを産地として進めていけるのかなと思っています。
地域の活性化を考えると、自然を相手にする仕事ですから、こうした生産に関する情報はオープンに共有して高め合う方が良いですよね。いずれワイナリーが増えてきた時に、ワインツーリズムのような形で色々なワイナリーを巡ってもらった方が、お客様もワイナリーも嬉しいはずです。そういう視点でつくばはもちろんのこと、茨城のワイン造りを盛り上げていきたいです。
【大塚さん】
茨城県のワイナリー数は意外に多く、全国6位なんですよ。生産量はまだまだですが、伸びしろがあり、将来的にワイナリー県になっていく可能性があると思っています。
そして、茨城はワインとペアリングする食材が豊富です。農家さんなどとも協力し合いながら、レストランや居酒屋で、地元の食材を使ったメニューや、地元のワイン、ビール、日本酒などを提供する場が増えればと思っています。

【井上大使】
つくばワイナリーへまだ足を運ばれたことがない方、ワインを飲んだことがないという方にメッセージをお願いします。
【大塚さん】
実はつくば市内の方でも初めて来られるという方が、まだまだ多くいらっしゃいます 。 ワインを飲めなくても、ぜひ一度お越しいただき、この最高のロケーションの中で自然を楽しんで欲しいです。
レジャーシートを敷いてお弁当を食べてピクニックしたり、ペアリングする食材を買ってきて、景色とともにワインを味わっていただければと思います。(特別なイベントなどの時以外は無料で開放されています)。
また、近隣には平沢官衙遺跡やつくばジオミュージアム、風情ある北条のまちが散策にもおすすめです。飲める方はぜひ、ワインと一緒に楽しんでくださいね。
商品紹介

つくばワイナリーが立地する気候の土壌に合った品種をオープン以来追求する中で、選ばれてきたぶどうとワイン達。メイン品種でもある「富士の夢」「北天の雫」など国産交配品種を使った「TSUKUBA SERIES」【右から1、2番目】と、「マルスラン」「シャルドネ」「メルロー」など海外品種を使った伝統的なワイン「TWIN PEAKS SERIES」【右から4、5番目】のラインナップが揃う。「TWINS PEAKS BLANC」【右から3番目】は、国内最大級のワイン・コンペティション日本ワインコンクール2024で銅賞受賞を果たした。
詳細はつくばワイナリーさんのホームページをご確認ください。
取材・文:井上魅空(第15・16代つくば観光大使)
編集:つくば市広報戦略課
写真撮影:鈴木茂樹(白と水と糸)
企画協力:つくばのおさけ推進協議会(つくば観光コンベンション協会内)
関連リンク
【つくばワイナリー公式ホームページ】
【Farm to Table つくば】つくばの食の魅力(つくば市運営)
この記事に関するお問い合わせ先
市長公室 広報戦略課
〒305-8555 つくば市研究学園一丁目1番地1
電話:029-883-1111(代表) ファクス:029-868-7628