つくば観光大使が聴く!つくばのおさけをつくる「人」
つくばヴィンヤード Tsukuba Vineyard(ワイン)
【左から】髙橋学さん(株式会社Tsukuba Vineyard 代表)、宮﨑絵美さん(第15・16代つくば観光大使)
雄大な筑波山、宝筐山を望む自然豊かな場所にある「つくばヴィンヤード 栗原醸造所」。そこは、「定年後は自分のワインで晩酌がしたい」と願った髙橋さんが夢を叶えた場所です。栗原の地をワインの産地にすることに情熱を傾け、新たなチャレンジを続ける髙橋学さんにお話を伺いました。
プロフィール
髙橋 学(たかはし まなぶ)さん
株式会社Tsukuba Vineyard 代表
北海道大学にて工学博士号取得。現・産業技術総合研究所にて勤務後、2014年よりワイン用ぶどう栽培を開始。つくば市栗原の約3ヘクタールの畑で栽培したぶどうのみを用いて、畑に隣接したワイナリーにて醸造。「美味しい、新鮮な、そしてdailyなワイン」の提供を大切にしている。
つくばでワイン造りをはじめたきっかけ
つくば観光大使の宮﨑絵美さん(第15・16代)
【宮﨑大使】
つくばでワイン造りをスタートされたきっかけについて教えてください。
【髙橋さん】
つくば市内にある産業技術総合研究所で岩石や岩盤に関する研究に携わり、定年まで勤めました。55歳くらいから定年後は何をしようかと考え始めたのですが、これからは自分で仕事がしてみたいなと。「自分でぶどうを植えてワインを造って晩酌できたら幸せだな」ってふと思ったんですよ。始めるなら40年以上暮らしたこのつくばでと決めていました。
つくばでぶどうを育てるには50a以上の土地を借りる必要がありました。つくば市の農業委員会に相談して最初に紹介されたのが、今の栗原醸造所のある場所でした。元々は耕作放棄地でジャングルのような状態でしたから、最初は友人にも「とんでもない、無謀だ」なんて言われたくらいで。整地だけで3ヶ月かかりましたが、とにかくやってやると、夢中でした。
【宮﨑大使】
初めてのワイン造り、最初に植えたぶどう品種とはどのような出会いでしたか?
【髙橋さん】
初めて植えたのは、今では白ワインのフラッグシップ(代表的なワイン)となった「プティ・マンサン」という品種です。10年前の5月に苗木屋に行って「ぶどうの苗はありますか?」とたずねたら、「プティ・マンサンならあります」と。関東は春植えであれば3月末には植えるので、あるということは売れ残っているっていうことなんですよね。でも他に苗が無かったので、じゃあそれをくださいと200本ほど買って植えました。ところが、これがもう大当たりで、育ててみたら房は小さいもののクオリティは抜群でした。ぶどうは糖度が上がってくると酸味が落ちてしまうところ、このプティ・マンサンは酸味が落ちず、味のバランスの良い美味しいワインができたんです。南フランス原産の品種ですが、この栗原地区の粘土質の火山灰土壌にも合い、日本の梅雨時期にも病気に強い。面白いぶどうです。
赤ワインのフラッグシップは「小公子」という品種です。2017年に広島の酒類総合研究所に研修に行った時に「小公子」を仕込んだワインを飲んだのですが、その瞬間に「ああ赤はもうこれだ、赤はこれで決まりだ」と確信するほどに味わいが素晴らしかったですね。「小公子」はいろいろな交配を繰り返しながら作られたヤマブドウ系の品種ですが、日本の風土にも合っていて耐病性も高い。それに収穫時期が8月上旬と早いので、台風のシーズンや暑い時期を避けられるのも強みですね。もちろん味や香りも優れていますし、ここで育てている「小公子」もクオリティは抜群だと思います。
取材時のはじめに「飲める方はぜひ」と振舞われた「小公子」のワイン。一口含むと、髙橋さんの言葉そのままの感動が伝わってきます。
【宮﨑大使】
どのようにして代表作と言えるようなワインができたのでしょうか?
【髙橋さん】
まず、ワインを飲んでみて良いと感じるかどうかですね。良いと感じたら、そのワインのぶどうの品種を調べて苗を入手し、植えています。次に、土壌の質、気候、温度など、ここの風土に合うかどうかを確認します。
そしてワインが出来上がったら最初は家族や仲間に飲んでもらうんですよ。醸造を手伝ってくれる人の中には、何年もお手伝いをしてくれる方がおりますが、ストレートな感想を述べてくれる方が多く、謙虚に耳を傾けています。彼らの忖度のない意見とフィードバックがあればこそのワインが出来ていますね。ワインは嗜好品なので、個人の感覚や味覚っていうのはものすごく大事なんですよ。
研究活動では、期待することに対してポジティブな意見もネガティブな意見も中立的に捉えて観察や分析を行うことが基本です。研究者としての経験から、良いものを造るためにはどんな意見も受けとめるというスタンスです。
【宮﨑大使】
ワイン造りにおいて、特に大事にされているのはどのような工程でしょうか?
【髙橋さん】
一番大事にしているのは、醸造している中で特に発酵が終わった後の管理ですね。どんなに原料が良くても管理が悪いと癖のあるワインになってしまうので、瓶詰めが終わるまでは全く気を抜けません。
発酵後のワインの兆候を正確にキャッチすることに集中しないといけません。醸造を始めて5年経って経験値も上がり、その傾向も分かるようになってきましたね。