ル・ボワ・ダジュール le bois d’azur

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つくば観光大使が聴く!つくばのおさけをつくる「人」

ル・ボワ・ダジュール le bois d’azur(ワイン)

【左から】井上魅空さん(元つくば観光大使)、青木誠さん(le bois d’azur 青木葡萄園 代表)

【左から】井上魅空さん(第15・16代つくば観光大使)、青木誠さん(ル・ボワ・ダジュール 青木葡萄園 代表)

つくば市上横場周辺は、人気のラーメン店が立ち並ぶサイエンス大通りや古くからの街道が集まる交通の要衝です。しかし、大通りから一歩入ると古民家や畑が点在する落ち着いた住宅街が広がっています。その一角でぶどう園を営み、フランス仕込みの技術でワインを造る青木さんにお話を伺いました。

プロフィール

ぶどう畑と青木さん
青木 誠(あおき まこと)さん
ル・ボワ・ダジュール 青木葡萄園 代表

つくば市上横場出身。大学を卒業後、飲食店での勤務経験を経て、2015年にフランスのワイン醸造学校へ入学。複数のワイナリーで修行したのち、2020年に帰国し、ル・ボワ・ダジュールを創業。実家で栽培する巨峰を使用したワインを2023年に初リリースし、添加物や化学肥料を使用しない自然派のワインを醸造している。

つくばでワイン造りを始めるまで

井上観光大使

つくば観光大使の井上魅空さん(第15・16代)

【井上大使】
樹齢約20~50年の巨峰からワインを生産されているとのことですが、これまでの経緯をお聞かせいただけますか。
【青木さん】
私が中学生の頃に母が巨峰の栽培をはじめ、当時はお小遣い稼ぎで畑の手伝いをしていました。母は、当初からずっと「ジベレリン」という、ぶどうを種無しにしたり実を膨らませるホルモン剤を一切使用せずに栽培していました。ホルモン剤を使用しないと、一般的に好まれるような大粒が揃った巨峰の見た目にはならず、小粒の実が多い房ができてしまいロスも出やすいのですが、種有りの巨峰は、種無しの巨峰と比べて甘く、特に母の巨峰は1、2 粒食べただけで水が飲みたくなる程に甘く、とても味わいのあるおいしいぶどうです。
そんな母の栽培に対する姿勢を間近で見てきた影響もあり、「環境」や「生態系」に興味を持って、大学は農学部へ進学しました。いつかつくばで農業に関わりながら仕事をするのだろうな、というイメージを持っていましたね。
ぶどう畑で語る青木さん

青木さんのお母様が育ててきた巨峰の樹。5本の樹の枝が畑を覆う広さに広がっています。「食用として提供している分は瞬く間に売れてしまうほど人気です」

【井上大使】
大学卒業後は、すぐに農業の道には進まず、飲食店に就職されたのですね。
【青木さん】
はい。学生時代に農業を勉強していく中で、農家の弱い部分は、販売面にあると感じていました。当時は個人がインターネットで販売できる時代ではなく、農家が収入を得るためには農産物を農協に卸すことが主流でしたが、そういった仕組みに依存する時代は変わるだろうと。
自分自身が生産者となったその先のことを考えて、「商売」つまり物の売り方、お客さまへの届け方などを身に付けておきたいと思っていました。飲食店で働き、調理や経営などを実践的に現場で学ばせていただき、とても役立っています。また、その会社は飲食業とは別に農業部門もあり、育てた野菜をお店で使用していました。その一連の流れを見ることができたのもとても良い経験でした。
醸造所で語る青木さん
【井上大使】
飲食業を経験していく中で、なぜワインの道に進んでいかれたのでしょうか。
【青木さん】
巨峰も小粒のものは、販売することが難しく、食用以外で何か商品にできないかと常々思っていました。
色々なアイデアが浮かぶ中、お酒が好きということもあり、ワインが造れたら良いなと思い、まずはソムリエの資格を取得しました。色々な産地や種類のワインを飲んでいくうちに、エレガントで繊細な味わいのあるワインを数多く生産するフランスのブルゴーニュ地方に魅かれ、29 歳の時、ワイン造りの勉強のために日本を飛び出しました。そして現地の醸造学校へ通い、複数のワイナリーで生産に関わりました。

フランスでワイン造りを学ぶ

ワインと青木さん

現在、巨峰のワインと、ヒムロッドという食用ぶどうを使った2種類のワインを生産している。

【井上大使】
異なる文化や慣れない言語の中で大変だったことはありますか。
【青木さん】
一番最初の試練が、現地で実習先を探すことでした。9 月の入学でしたが、ちょうどぶどうの収穫時期で多忙なシーズンにぶつかり、いくつもの実習先に受け入れを断られました。さらに、ブルゴーニュ地方は世界トップクラスのワイン産地で人気があり、フランスは労働関係の法律が厳しく、そう簡単に外国人を雇ってはくれません。
言葉もままならない、ワイン生産の教育を受ける前で何も知らない、そんな状態の私を受け入れてくれたのが、「シモン・ビーズ」という日本人女性が当主のワイナリーでした。他のフランス人のスタッフさんに揉まれながら働かせてもらいながら、醸造の授業を受けて勉強することができ、拾ってくれた当主の方には本当に感謝しています。
日本でソムリエ資格を取得していたものの、生産の現場を自分自身で見て、現地の方とワインの話をしていると、そもそもワインが身近にある世界の中で圧倒的に知識や経験が足りていない、自分はうわべだけのことしか勉強できていなかった、という現実に打ちのめされました。
「もっとワインを飲まなきゃダメだ」…フランスと日本では、日常的にワインが飲まれていることや、量・質などが明らかに異なります。そこで、フランス各地で開催されている生産者さんたちが集まる試飲会に度々足を運びました。そこで色々なワインを飲んでいく中で「これは!」と感じたのがフランスのジュラ地方にある「ガヌヴァ」と「ミロワール」というワイナリーで造られているワインでした。現在の私自身のワイン造りのこだわりである「ヴァン・ナチュール」というタイプのワインです。
醸造所で語る青木さんと井上観光大使
【井上大使】
「ヴァン・ナチュール」とはどのようなワインでしょうか。
【青木さん】
実際、「ヴァン・ナチュール」には、これという規定はありません。ぶどう栽培においては、農薬を最小限に抑え、化学肥料や殺虫剤、除草剤などを使用せずに栽培します。醸造においても酸化防止剤は無し、もしくは最小限に抑え、ろ過をせず、清澄もせず、補糖、補酸もしません。発酵はもちろん天然酵母を使用します。基本的にぶどうの果汁だけで造るワインです。味も違いがはっきり分かるほど独特です。
そもそも、フランスをはじめとするヨーロッパの農業では農薬や殺虫剤、除草剤の規制基準が日本と比べて厳しいです。そして、フランス人は食に対する関心が高く、食材への考え方も日本人と大きく異なっているなと思いました。
例えばマルシェ。フランスでも、日本のようにピカピカで大きさが揃った野菜を売る人もいれば、不揃いで土が残っているような野菜を売っている生産者もいます。買うお客さまも、生産物の見た目よりも作り手などプロセスの安全性や安心を選んで購入している印象を強く受けました。

ル・ボワ・ダジュールのこだわり

樽を見ながら語る青木さん
【井上大使】
まさにお母様の巨峰栽培とファン・お客さまの関係に通じるものがありますね。
【青木さん】
そうですね。農業は人間が生きている以上、自分達の世代だけでなく、次の世代もずっと続けていく営みだと思います。私は、子どもたちが食べて体をつくっていく上で、できるだけ安全かつ安心なものを作りたいですし、次の世代の人達にもそういうことを大事に考えて作って欲しいと思っています。
ワインが棚に入っている様子
【井上大使】
その想いを現在のぶどう栽培やワインの醸造で実践されているのですね。巨峰のワインは比較的珍しいと思いますが、どういう特徴があるのでしょうか。
【青木さん】
国内では巨峰のワインというと、「あまりおいしくない」というイメージが多かったかなと思います。巨峰は大粒で果皮に比べて果汁の部分が多く、一般的なワインの造り方をすると、どうしても水っぽいワインになりやすいとか、実は造り方の部分でおいしいものを造る方法がまだ確立されていない部分が多いです。ですが、実際にフランスのジュラ地方で、巨峰に似て大粒で皮も薄いワイン用ぶどう「プール・サール」という品種を収穫の時に食べ、巨峰に似ている味わいを感じました。その「プール・サール」のワインを飲んでみて、ヒントを得ることができました。果実味が前面に出た、フルーツを食べているようなワインです。
フランスの生産者の皆さんが口を揃えて言っていたのは、「おいしいワインを生み出すには、しっかり熟したぶどうでワインを造る」ということでした。母の巨峰の作り方、出来上がるぶどうがまさにそのような条件を満たしていると思い、うちの巨峰なら美味しいワインができる、とその時に確信しましたね。
基本的にぶどうの栽培では、花が咲いてから 100 日後が収穫の目安と言われていますが、うちではもっと時間を置きます。しっかり種まで茶色くなるほど熟し、香りの熟度まで追求して収穫することが、ル・ボワ・ダジュール のこだわりです。
【井上大使】
通常よりも収穫まで時間を置くことは、リスクもあると思いますが。
【青木さん】
待つと当然、雨が降って湿気や水分で病気が発生したり、 収穫時期になると動物に食べられたりするので、せっかく実が成ったのにロスが生じる可能性が高くなるのは確かです。ですが、そこを乗り越えて得られる味わいのあるワインを造りたい、という想いが一番です。
とはいえ、食用にしても巨峰の栽培は結構難しいんです。古い木は、深く根が張り大雨の影響も受けにくく、良い実が成るのですが、生産量が落ちてくることから農家さんによっては植え替えをする場合もあります。ですが、私は今まで大切に育ててきたものを切るのではなく、生かしていきたいという想いがあります。
各地でワイナリーが増えています。苗植えから始める方が多く、その場合3、4 年経ってからようやくぶどうができ、ワインが仕込める段階になりますが、資金面などハードルが高いのではないかと思います。また、一般的なヨーロッパのぶどう品種は1本の木から約1kg のぶどうが収穫されますが、巨峰は高樹齢の木なら100kg~150kg で、生産量も栽培の仕方も実は全然違います。
現在ここで作っているぶどうは全てワインにしているわけではなく、食用で販売するものと、小粒の割合の多いものとを分けています。これまで収益にはならなかったぶどうもワインにすれば収入のプラスになります。
また、私たちの場合は既に巨峰の畑があり、ぶどう作りも熟知していたので、フランスから帰国してすぐに、実家の蔵を活用して醸造所を作り、許可を受けてワイン造りを始めることができました。
また、つくば市内の要(かなめ)地区でヒムロッドという食用ぶどうを作られている旧知の農家さんが私たちのワイン造りを知って「高齢のためぶどう畑をやめようと思っています」と母づてでお話がありました。国内ではヒムロッドでワインを造っている例はほとんど聞いたことがありませんでしたが、巨峰を使ったうちのワイン造りの手法で造れば素晴らしいワインになるはずだと思い、畑を借りさせていただくことになりました。
フランスから帰ってきてまだ4年ほど(取材時2024年11月)ですが、ワイナリーと巨峰とヒムロッドを合わせて約3haのぶどう畑を運営し、ワインを生産する体制を構築することができました。
ワインが入った樽

ワイン造りにかける思い

【井上大使】
すごいスピード感、そして長年のお母様の巨峰作りの努力とご縁が今につながっているのですね。ル・ボワ・ダジュールさんは「100 年後も、この土地にワイン造りがありますように」というメッセージを掲げられています。こちらにはどのような想いが込められていますか。
【青木さん】
つくばは生まれ育った大切な場所です。今は、つくばエクスプレスが走る中心部は人も増えて活気があるものの、それ以外の地域は人が減っていて荒れ果てた畑が増え、畑を管理している方も高齢化が進んでいます。そういった土地はこれからどんどん増えていくでしょう。
そこで私たちは、耕作放棄地や後継者がおらず管理ができなくなりつつある土地にぶどうを少しずつ植えるアクションを始めています。また、次の世代の人たちが「私たちもやってみたい」と思えるような農業を実践して示していこうと思っています。そのためには、経済的に成立するぶどう栽培とワイン造りをまず私たちが成功させなければと思います。
農業の分野から、つくばをもっと盛り上げていけたら、という願いがあります。やはり、活気がある街には、その土地に根付いた名物や名産があるものです。ワインだけではなく、つくばならではの農産物や農産加工品も生み出せる場所になっていけばと思います。
ぶどう畑
【井上大使】
ワイン造りや農業を目指す方たちへメッセージをお願いします!
【青木さん】
自分が何をやりたいのか、何を大切にしたいのかを忘れずに、描くビジョンや目指すものに対して、ブレないようにすることでしょうか。
ワインは、同じ容量(1 本 750ml)、同じ原料(ぶどう)に対して価格幅がとても広い品物です。例えば、1 本 100 万円のワインを目指すのか、1 本 1000 円のワインを目指すのかで、行うべき取り組みや栽培方法はまったく異なります。自然が相手の仕事ですから生産量が落ちたり、想定外の出費が生じたりと、厳しい局面で、どんどん違う方向に流れてしまい、結局自分がイメージしたことと違うことをしている…ということにならないようにするための意識は大事です。
どんなワインを造りたいのか、どういった方向性でワイナリーを運営していきたいのか、というのは最初に決めておく方が良いと思います。ビジョンが無いままで始めると、ワインのクオリティにも影響してしまいます。
私は、安全安心でおいしいワインをつくる、ということをとても大切にしています。そこは絶対にブレない。そのうえで、今後は生産量を増やしていき、いずれは海外のワインとも戦えるようなワインを造っていきたいですね。フランス留学時代の同僚は世界的にも有名になり、活躍しているので、とても刺激を受けています。巨峰は日本でしか育てられていないことも利点にしていきたいですね。ヒムロッドでワインを造ったことを海外の仲間に伝えたら、皆が「飲んでみたい!」と興味津々でした。海外の品種をこれから育てていく予定ですが、30年、50年と年を重ねた樹齢の巨峰やヒムロッドも逆に海外に伝えていきたいですね。

商品紹介

ワインを持つ青木さん
ル・ボワ・ダジュールのワインはすべて添加物や酸化防止剤を使用せず、しっかり熟成させることでワインが持つ香りやぶどう品種ごとの味わいを表現している点が特徴。
「mon petit rouge」
ぶどうの香りが全面に出た少し酸味を感じる果実感のある巨峰 100%の赤ワイン。
「mon petit blanc」
ヒムロッド100%の白ワイン。清涼感やぶどうの酸味に加え、ふくよかな味わいを楽しめる。

詳細はル・ボワ・ダジュールさんのホームページをご確認ください。


取材・文:井上魅空(第15・16代つくば観光大使)
編集:つくば市広報戦略課
写真撮影:鈴木茂樹(白と水と糸)
企画協力:つくばのおさけ推進協議会(つくば観光コンベンション協会内)

関連リンク

【ル・ボワ・ダジュール公式ホームページ】

【Farm to Table つくば】つくばの食の魅力(つくば市運営)

この記事に関するお問い合わせ先

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