稲葉酒造 INABA SHUZO

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つくば観光大使が聴く!つくばのおさけをつくる「人」

稲葉酒造 INABA SHUZO(日本酒)

【左から】稲葉伸子さん(稲葉酒造六代目蔵元杜氏)と宮﨑絵美 さん(つくば観光大使)

【左から】稲葉伸子さん(稲葉酒造六代目蔵元杜氏)、宮﨑絵美さん(第15・16代つくば観光大使)

筑波山の地層によって磨かれた湧き水と地域の米で醸す筑波山麓の酒蔵、稲葉酒造。150年以上の伝統を受け継ぎながら、2023年には「筑波山蒸溜所」をオープンし、酒粕を蒸留した香り高い焼酎を誕生させるなど、革新的なチャレンジを続けられています。六代目蔵元杜氏の稲葉伸子さんに、家業である稲葉酒造を継がれたストーリー、そして造り手としてのこだわりや想いを伺いました。

プロフィール

稲葉伸子さん

稲葉 伸子(いなば のぶこ)さん

稲葉酒造 六代目蔵元杜氏 


1867年創業の稲葉酒造の次女として生まれる。茨城県内では初、全国でも珍しい女性杜氏として、2000年より蔵元を継承。伝統の酒造り技法と独自に学んだ醸造学や食文化の知識、女性ならではの感性を融合し、「すてら」をはじめ、世界的に評価される新たな日本酒を生み出している。

会社員生活から酒造りの道に

【宮﨑大使】

家業である稲葉酒造を継がれるまでのストーリーをお聞かせいただけますか。

【稲葉さん】

稲葉酒造を継いで今年で25年になります。私は二人姉妹で育ちましたが、父からは一度も継げと言われたことはありませんでした。お酒がたくさん飲まれていた高度経済成長期とは違い、当時は多くの酒蔵が廃業していくような時代でしたから、父は自分の代で終わりだと思っていたのでしょう。ただ、小さい頃から私は酒蔵が大好きで、学校から帰るとランドセルを背負ったまま酒蔵に直行しては、新潟から来ていた蔵人の方々とお話をしたり酒造りの様子を見たりするのがとても楽しみでした。

自分が酒造りをすることは全く考えることなく社会人になり、やりがいを感じられる充実した会社員生活を送っていましたので、結婚して子供を産んだ後もすぐに会社に復帰しました。しかし、ふと酒蔵を見たとき「私が継がなければ、この蔵は無くなってしまう」という思いが湧いてきたのです。それからというもの、どうしようかとずっと悩み続けました。

継ぐと決めるまで、5年くらい考えをめぐらせていたでしょうか。私の悩みを察して、「酒蔵を継ぎたいという気持ちがあるなら、やってみたらいい」と夫が後押ししてくれたんです。私自身も、まずは自分のできる範囲で少しでも良いからこの酒造りを後世に残したいという思いが強くなり、酒造りの世界へ入る決心をしました。

稲葉伸子さん

【宮﨑大使】

女性の杜氏はとても珍しかったと聞きましたが、どのような気持ちで酒造りの世界に飛び込んだのでしょうか?

【稲葉さん】

当時は、女性の杜氏はほとんどいませんでしたね。県内には一人もいませんでしたし、全国でも2、3人くらいだったと思います。昔は女性が酒蔵に入るなんてとんでもない、という時代でしたし、女性に何が出来るんだ、という風潮もありましたから。ですが、逆境であるほど、周囲の声に負けないぞという強い気持ちと、私が継がなければという思いが高まりました。私にはできる、必ずやってみせると、不思議な自信があったように思います。

家業に入るに当たっては、まずは茨城県産業イノベーションセンターで酒造りの勉強をしました。女性は蔵に入れない慣習があったために、父の背中を見て学ぶのではなく自分自身で一から学ぶ必要がありました。父も母も、苦労はさせたくないと私が酒蔵を継ぐことに大反対でしたが、それでも、夫の支えと自分自身の強い思いがあったからこそ、酒造りの世界に飛び込むことができたように思います。

それからの数年間は、寝る間も惜しんで酒造りに入り込んで、とにかく酒造りのことだけを考え続ける生活が続きました。あの頃は本当に無我夢中で、毎日が必死でしたね。当初は採算を度外視してとにかくおいしいお酒を造ることだけを考えていましたが、現在は、製造は私が担当し、経営面は夫が支えてくれています。方向性が違っていると感じた時は夫が軌道修正をしてくれますから、目指す場所へ一緒に歩んでいると日々感じています。

稲葉伸子さん

【宮﨑大使】

まさに夫婦二人三脚のお酒造りなのですね。酒造りの流れや、大切にされていることについて教えてください。

【稲葉さん】

春に田植えをして秋に収穫された米を使って酒造りが始まりますが、稲葉酒造では、その年の新米で出来るだけ早く新酒を飲んでいただきたいという思いから、8月末には筑波山麓で収穫された新米でいち早く酒造りを始めます。

日本酒は、1つのタンクの中で麹と酵母の力で「並行複発酵」する世界でも珍しいお酒です。米は蒸しただけではお酒の原料にはなりません。麹の力で米のデンプンを糖化させる必要があり、その糖分を酵母がアルコールに変えるという仕組みでお酒ができます。味わいは麹、香りは酵母によって決まります。麹と酵母がうまく働けるように、精米歩合に加えて温度や水分量などを調整していくことが重要です。目指す味わいに合わせて工夫や技術を入れて、良い日本酒を造ることを目指しています。

稲葉伸子さん

サステナブルな酒造りの実現へ

【宮﨑大使】

つくば産の米と水へのこだわり、そして地域でのお酒造りについて、どのような想いをお持ちでしょうか?

【稲葉さん】

日本酒造りにおいては米と水がとても大切です。以前は全国各地のおいしい米を使用していましたが、やはりつくばの酒造りはこの地域の米と水を使うべきだと考えるようになり、7、8年前から地元産の米を使うようになりました。筑波山の水が流れる場所で育った米と筑波山の湧水は、酒造りに合わないはずがない組み合わせだと信じています。

また、敷地内に新たにオープンした「筑波山蒸溜所」では、稲葉酒造の定番品「すてら」と「男女川」の酒粕を蒸留したプレミアム焼酎をお出ししていますが、今年はその蒸留粕を田んぼの肥料としても使ってみたところ、農家さんが驚くほどの素晴らしい育ち具合だったそうです。米で酒を造った後の酒粕を田んぼに戻すことで良い米が育ち、その米でまた美味しい酒を造るという、地域全体で循環するサステナブルな酒造りを実現したいですね。酒造りを通して、地域とともに歩んでいきたいと思っています。

筑波山蒸溜所

【宮﨑大使】

つくばの方々、そして世界中の稲葉酒造のファンに向けてメッセージをお願いします。

【稲葉さん】

つくばの地で造った日本酒を、より多くの方に知っていただき、飲んでいただきたいですね。地元の方々はもちろん、日本中そして世界中の人々につくばの日本酒の魅力を広めていきたいです。ロサンゼルス国際ワイン・スピリッツコンペティションで最高金賞を受賞したこともあり、今では海外の方にもつくばの日本酒を味わっていただく機会が増えました。海外の方は銘柄ではなく味で判断して感想をいただくことが多く、とてもうれしく思います。「おいしい!」と笑顔で言っていただけるお酒、それが私の理想とするお酒です。

日本酒造りは神秘的で、一本一本、香りも味わいも様々です。今まで日本酒を飲んだことがないという方も、ぜひ一度味わってみてください。そして、もし酒造りにも興味があれば、ぜひ蔵に来て体験してみてください。酒造りの仕事は簡単ではありませんが、とてもやりがいに満ちた仕事です。

商品紹介

稲葉酒造の商品ラインナップ

「男女川 しぼりたて 純米吟醸」
稲葉酒造の定番の一品。バナナやメロンのような果実香とキリッとした風味を持つ、やや辛口の味わい。

「男女川 純米吟醸 TSUKUBA100」
米はつくばの五百万石、水は筑波山の湧き水と、全てが「つくば」の純米吟醸。お米の良さが生かされた、ふくらみのあるしっかりとした味わいが特長。

「すてら プレミアム純米大吟醸 雫酒」
お酒の上質なところを一滴一滴自然の重みだけで落としたお酒。華やかな香りとフルーティーさが広がる。

「STELLA SENSE」
筑波山麓の棚田で育った希少な酒米と筑波山の地層に磨かれた湧き水を使用した、エレガントな風味が広がるプレミアム日本酒。稲葉酒造のフラッグシップとなる一品。

「筑波山蒸溜所 すてら」
すてらの酒粕を蒸留させたプレミアム焼酎。すてらならではの華やかでフルーティな香りが感じられる味わい。

「筑波山蒸溜所 男女川」
男女川の酒粕を蒸留させたプレミアム焼酎。男女川のキリッとした風味が生かされている。


詳細は稲葉酒造さんのホームページをご確認ください。


取材・文:宮﨑絵美(第15・16代つくば観光大使)
編集:つくば市広報戦略課
写真撮影:鈴木茂樹(白と水と糸)
企画協力:つくばのおさけ推進協議会(つくば観光コンベンション協会内)

関連リンク

【稲葉酒造公式ホームページ】

【Farm to Table つくば】つくばの食の魅力(つくば市運営)

この記事に関するお問い合わせ先

市長公室 広報戦略課
〒305-8555 つくば市研究学園一丁目1番地1
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