ビーズニーズヴィンヤーズ Bee’s Knees Vineyards
つくば観光大使が聴く!つくばのおさけをつくる「人」
ビーズニーズヴィンヤーズ Bee's Knees Vineyards(ワイン)

【左から】今村ことよさん(ビーズニーズヴィンヤーズ 代表取締役)、井上魅空さん(第15・16代つくば観光大使)
ぐるりと山々に囲まれ、のどかな風景が広がる筑波山麓の六所(臼井)地区。花崗岩質の土壌でワイン用のぶどう生産に適した場所でもあるこの土地に巡りあって約10年、ぶどうの栽培から醸造まで⼀貫したワイン造りを⾏っている、ビーズニーズヴィンヤーズの今村さんにお話を伺いました。
プロフィール

今村 ことよ(いまむら ことよ)さん
株式会社ビーズニーズヴィンヤーズ 代表取締役
茨城県守谷市出⾝。筑波大学生命環境科学研究科で生物学の博士号を取得後、大手製薬会社で研究部門を経たのち臨床開発部門にて骨粗鬆症・関節リウマチの創薬に携わる。2013年、40歳を機に退職し、長野県のワイナリーでぶどうの栽培・醸造研修。2015年につくば市内に移住しビーズニーズヴィンヤーズを開園。2023年に自社ワイナリーを設立。
ワイナリーを訪れて
2023年にオープンしたワイナリーは、カフェのような温かみのある居心地の良い空間。カラフルなイスに腰掛けると、大きな窓からはぶどう畑と筑波山が⼀望でき、店内にはこれまで造ってきたワインが並ぶワインセラーや、たくさんのボトルが保存されたワインサーバーが目に⼊ります。
ワイナリーの店内入口付近には、生産するワインのラインナップが解説とともに並んでいる
【井上大使】
ここでワインの飲み比べができるのですね。畑で採れたワイン用ぶどうのジュースやコーヒーもあって、アルコールが飲めない方でも楽しめるサービスが嬉しいですね。
【今村さん】
ここで⽣産している様々なワインを少しずつ(⼀杯約20ml)テイスティングいただけます。ボトル内のワインの鮮度を保つことができる特別なワインサーバーで、常時6種類のワインをセルフサービスで試飲していただけます。
様々なワインをフレッシュな状態で試飲できるワインサーバー

【今村さん】
ドライバーの方やサイクリングで⽴ち寄ってくださった方にも楽しんでいただけるように、この畑で採れたぶどうだけを使った、ぶどうジュースも無料試飲いただけます。2024年9⽉の「つくばのおさけ推進協議会」発足イベントで、こちらのジュースを提供した時、飲んだお⼦さんが「あのジュースがまた飲みたい︕」と別の日に今度はワイナリーにいらっしゃったことがあります。一般的なぶどうジュースとは異なるワイン専用品種の味わいを喜んでいただけたことが、とても嬉しかったですね。
ワイン造りにかける想い
【井上大使】
ワイン造りでは、どのようなことにこだわりを持っていらっしゃいますか。
【今村さん】
私自身、東京で飲み歩きをしながらワインに傾倒していきましたので、その経験からも「⾷事に合うワイン」、特に茨城の食材に寄り添うワインを造りたいと思っています。そしてワインの品質管理も重要と考え、ぶどうの栽培からワイン醸造、販売まで一貫して追求しています。
剪定前の畑を見ていただくとよくご理解いただけるのですが、うちの畑ではぶどうの枝がほぼ真っ直ぐ上に伸びていて、枝の長さも揃っているかと思います。枝は横に伸びると長さが不揃いに、斜めに伸びると葉っぱの数が増えて太さも変わってしまうのですが、これは栽培未経験で始めた方の畑でよく見られる光景で、花芽がつかないなどの影響が見られるようになってしまいます。また枝が繁茂しすぎてぶどうが病気にかかりやすくもなります。
うちの畑のように各枝の太さが揃うと来年出てくる枝もまた揃います。ぶどうの出来や収穫の効率性など様々なことにも影響しますので、いつも俯瞰して畑を見守るようにしています。試行錯誤をしながら、手をかけることを積み重ねて畑を成長させ、良い状態を保てるように整えています。
ぶどう畑は風通しも重要です。気象データや気象学の論文を参考に、畑の立地や方角に合わせて最適な栽培方法を検討して取り入れます。例えば、この畑では風通しだけでなく、収穫時の日光の向きも計算して、畝の方向を決めているんですよ。このほかにも、得られる知見やデータは⼀通りインプットして、ワイン造りに活用しています。
また圃場を筑波山麓に決めたのも、筑波山麓にのみ花崗岩土壌が広がっていたからです。つくば市に4つのワイナリーがありますが、花崗岩土壌栽培のぶどうだけでワイン造りを行っているのは「つくばワイナリー」さんと弊社「ビーズニーズヴィンヤーズ」の2社のみとなります。

ワイン造りを始めるまで
【井上大使】
⽬の前に広がる畑にも、今村さんのぶどう作りへの姿勢、ノウハウと努力が詰まっているのですね。以前は製薬会社で研究されていたそうですが、その時の経験はどのような形でワイン造りに⽣かされているのでしょうか。
【今村さん】
私は茨城県守⾕市の出身で、大学から大学院まで筑波大学に9年間在籍していたこともあり、つくばはずっと馴染みのある場所です。学生時代は就職氷河期だったこともあって、大学では生物学を専攻し、博士課程まで進みました。それから都内の製薬会社に就職し、初めて茨城県を出て、ワイナリーの名前にも含めている膝(knees)に関する研究に従事することになりました。
研究⽣活で培ってきた考え方やモノの見方は、自分のワイン造りの根幹となっています。英語の文献や論文を読むことに抵抗がないことは、ワインに関する国外の情報やデータを得ることに大いに役立っていますし、ぶどう栽培においては、経験者から得たアドバイスをそのまま実行するのではなく、自分の頭で考えて納得してから、畑の上で検証するというようなやり方を大事にしています。
【井上大使】
研究者である今村さんならではのバックボーンを生かしたワイン造りに、確かな自信を感じます。そもそも、今村さんとワインの出会いや、ワイン造りのきっかけはどのようなものでしたか。
【今村さん】
ワインを本格的に飲むようになったのは就職して、経済的な余裕ができるようになってからですね。⼀般的にも30歳前後でワインにハマる方が多いのもそういう事情が大きいのではないかと思います。生物学が好きで仕事にしていて、お酒や食べ歩きが好きで…というところがうまく融合して、自分のバックグラウンドが役に立つだろうな、こういう仕事をするのもいいんじゃないか、と思うようになりました。
ワインエキスパートの資格も取り、様々なワインを飲むうちに、茨城は農業県であるにも関わらず、この土地からできるワインで満足できるワインがない、と思うようになりました。その頃から、「つくばの土壌でヨーロッパのワイン専用品種を植えたらどういうものができるのか、実験(フィールドワーク)して試してみたい」、そして「いつかはつくばに戻りたい」という気持ちが重なり、「つくばでワイン造りができたら︕」という想いに発展していきました。

【井上大使】
とはいえ、安定したキャリアからの転換に迷いは無かったのでしょうか。
【今村さん】
もし自分が2⼈いれば、1⼈は会社に残り、1⼈はワイン造りに挑戦する、といった選択肢が取れたのですが、私は1⼈しかいない。「やらなかった後悔の方が嫌だ。まだ40歳。10年やってみてダメだったら諦めよう」。そう考えました。
勤めていた製薬会社で、20年に1度あるかないかとも⾔われる新薬の開発に貢献する成果を出すことができ、研究開発職としてのキャリアに⼀区切りがついたと内⼼で思えました。また、私は今後、製薬会社でマネジメントの仕事がしたいわけではなく、最後まで現場にいたいなと思い続けていたというのもあります。
製薬会社を退職して、ワイン造りをしたいということを家族(夫)に話したところ、「やりたいことがあるのに、やらない意味が分からない」と言われて背中を押されまして(笑)、決意しました。

会社に勤めながら、ワイン造りを学ぶ
【井上大使】
会社を辞める前に勤めながら準備をされたそうですが、その時のお話を聞かせてください。
【今村さん】
40歳になった頃、当時勤めていた会社が早期退職制度の募集をしていたタイミングで「これからはワイン造りに挑戦したい」という話をしました。上司にも理解をいただき、セカンドキャリアへの挑戦を前向きに⽀援してくださいました。
退職を決意するまでの39歳の1年間は、都内で会社員生活の傍ら、週末になると朝5時に起きて長野まで通い、2つのワイナリーで栽培や醸造の手伝いをさせていただくようなことも続けていました。製薬の仕事も今までどおりきっちりこなし、休日出勤も行いながらでしたので、肉体的にかなりハードでしたが、そうした体験を通して自分が脱サラしてワイン造りに踏み込めるのかを自問していました。
また、ワイン造りを始めるに当たっては、健康診断やそれまで受けたことがなかった脳ドックも受診して、体の状態を徹底的に検査しました。体が資本ですし、急に畑でパタッと倒れるわけにはいきませんからね(笑)。
不安というものは必ずどこかで発生するものです。当時参加した新規就農相談会では、「家族の理解はあるか」、「最初は全然お金が入ってこないけど⼤丈夫か」など、再三確認されましたが、私の場合は1年以上の時間をかけて退職を決意し、更に脱サラ後のワイナリー研修を通してしっかり準備をした方なのではないかと思います。とはいえ、経験を積んでもなお勉強及び試行錯誤の日々です。

【井上大使】
入念なご準備をされてのスタートでしたが、大変だったことや苦労したことはありますか。
【今村さん】
私は結構、喉元過ぎれば忘れてしまうタイプで(笑)。でも、開業1〜2年目は毎晩のようにうなされていたと後から夫に言われました。
就農のハードルもいくつもありました。畑を借りなければいけませんし、苗を確保する必要があります。ぶどうも収穫のタイミングである程度の人手を確保して収穫する必要があります。何かと支出も多く、就農1年目だけで1,000万円ほどがあっという間に無くなった時は、さすがに先行きが心配になりましたね。
さらに、気候変動といった自然のことなど、自分ではどうにもならないこともあります。実が付き始めた樹々を保護するための傘がけ直前に雹が降り、ぶどうの実が傷ついてしまったこともあります。変色した粒をそのままにしているとカビが発生して病気が出る場合があるので、その粒抜きをするために急遽人を呼ばなければ…など想定外の出来事が色々と起こりますが、メンターともいえる農業生産者の先輩方に相談したり、情報交換をして、臨機応変に対応しています。

食の提供、ワイン造りをもっと身近に
【井上大使】
ここに並んでいる華やかなエチケット(ラベル)のワインや素敵なワイナリーができ上がるまでの今村さんご本人のストーリーを伺って、親近感とともに勇気をいただきました。これからの今村さんの展望についてお聞かせください。
【今村さん】
この六所地区にはおそらく10年以上「商店」が無かったので、地域の方からは、ここにお店ができたことを喜んでいただいています。将来的に、ワインとともに楽しめるランチなどもここで提供できたらと構想しているところです。
また、10年ほど畑と向き合ってきて、考えていることがあります。それは、私がぶどうやワイン造りを通じて得てきたこと、得ていることの価値を様々な⼈々にもっと知っていただいたり、体験していただいて、共有したいということです。
【井上大使】
とても素敵ですね!今村さんがプロデュースするランチをぜひ味わってみたいですし、ワイン造りに興味を持っている方もきっと今村さんの行動と体験に基づいた知見から、沢山のことを学べると思います。
【今村さん】
ワインを自分でも造ってみたい、という方をもっと巻き込んでいけたらと思っています。私のように仕事を辞めて、人生を賭けなくても、ワイン造りには色々な形や度合いで関わることができるはずですから。でもそういう機会自体がまだ知られていないし、少ないのではないかと思います。また、割と簡単にできると考えて安易に参入してしまう方が後を立たない業界ですので、「こんな筈ではなかった」という方が出ないようにしなければならないと考えています。本当にぶどう栽培もワイン造りも奥が深いので、その知識をたくさんの方と共有したいですね。
つくばは東京とも近いですから、国内のぶどう畑の中でも⼤きな都市部とのアクセスが良い立地だと思います。年間を通して畑に通っていただきながら、草取り、絞り作業、自分のオリジナルラベルを作るといった⼀連の工程を、家族や友達と楽しめる体験イベントなど、様々な⼈々がワイン造りに参加しやすい企画を考えています。つくばでぶどうを育てる、ワインを造ることを多くの⼈に体験していただくことを広げ、⼀緒に造る仲間をもっと増やしていきたいです。
将来的にはつくばに限らず、日本国内のいずれかの地域でぶどう農園やワイナリーを本格的に始めたい、という方のサポートもしていけたらと思っています。就農計画、補助金取得、酒類販売免許や果実酒製造免許取得など、前職の経験から全部自分でやりましたので、書類作成は得意な方だと思います!(笑)

【井上大使】
今村さんのお言葉に刺激を受ける方も多いはずです!最後にメッセージをお願いします!
【今村さん】
コルクを抜いたり、グラスに注いだり、まだ日本ではワインは難しいもの、神聖なもの…と捉えられがちですが、全然そんなことはありません。農産加工品のひとつとして、ワインを身近なものとしてもっと多くの方に触れて、楽しんで欲しいと思っています。
ワインの飲み方だって、夏にはカチ割りスパークリング、寒い時にはホットワイン、それ以外にフルーツやスパイスを加えたサングリアなど、もっと自由で良いのではとも思います。
その中で筑波山麓産のワインを飲んでみたい⽅はもちろん、ワイン造りに関⼼がある方は、ぜひ、ビーズニーズヴィンヤーズのワイナリーや畑に遊びに来てくださいね。
美しく整ったぶどう畑と雄大な筑波山を背景に、明るくはつらつとした声で語ってくださった今村さん。ここでは紹介しきれないほどの、ワインに関する専門的なお話、誰かに紹介したくなるようなエピソードを沢山伺いました。
ぜひ一度、ワイナリーを訪れてみてください。
商品紹介

⽇々の食卓に寄り添う、滋味深いクラフトワインであるようにと想いを込めて醸しているというビーズニーズヴィンヤーズのラインナップ。
開園当初から造られている「Spiral」【白、右から3番⽬】と「Overdrive」【赤、右から4番⽬)】は畑で採れる全ての白ぶどう、黒ぶどうを収穫年ごとにバランスよく調合。ミネラル感の強い厚みのある白ワインと、ボルドースタイルのしっかりとした赤ワインとなっている。
詳細はビーズニーズヴィンヤーズさんのホームページをご確認ください。
取材・文:井上魅空(第15・16代つくば観光大使)
編集:つくば市広報戦略課
写真撮影:鈴木茂樹(白と水と糸)
企画協力:つくばのおさけ推進協議会(つくば観光コンベンション協会内)
関連リンク
【ビーズニーズヴィンヤーズ公式ホームページ】
【Farm to Table つくば】つくばの食の魅力(つくば市運営)
この記事に関するお問い合わせ先
市長公室 広報戦略課
〒305-8555 つくば市研究学園一丁目1番地1
電話:029-883-1111(代表) ファクス:029-868-7628